お風呂からあがって寝室に向かうと、寝台には薄く笑った師が腰掛けている。
私は何となくその笑顔が苦手で、足が思うように進まない。
そんな私の腕を師はくっと柔く引く。
拒むことは容易なはずなのに、私の身体は羽が生えたように、ふわりと彼の胸に飛び込み、
次の瞬間には真っ白いシーツに広がるのだ。
003 触れた瞬間から痺れる
「嫌…?」
嫌じゃないことなんて分かっているくせに。
返事を待つように、老子の白い指先が私の鎖骨の上を滑る。
「…や…じゃないです…」
金の瞳に吸い込まれたくない。
その瞳から逃げるように顔を横に向けると、無防備になった首筋に唇が寄せられた。
「っ…ん…」
ちくりと弱い痛みが走る。
老子が満足そうに微笑んでいるところを見ると、どうやら赤い痕はくっきりと浮かんだのだろう。
「あまり…付けないでくださいよ。」
「いいじゃない。見えないでしょ?あの服じゃ…。」
「見える見えないの問題では…っや…ぁ…」
首筋から離れた唇が、下がって胸を舐め上げた。
誰かに見えるとか、見えないとかではなくて。
そこに痕があると思うだけで、その日は気が気じゃないのだ。
思い出したくもないのに思い出してしまう。
感覚まで戻ってくるようで、…いたたまれない。
執拗に弄ぶ舌から逃げるように身をよじる。
お腹に添えられた手にするりとわき腹を撫でられて、身体がぴくんと跳ねた。
「ほんとに感度がいいね、申公豹は…」
「悪、かった…ですね…っ…」
「褒めてるんだよ。」
クスクスと笑う声。
…何が褒めてるだ。
そんなこと言われたってちっとも嬉しくない。
「なぁに?怒っちゃったの?」
「べつに…。」
面白くなくてそっぽを向いた。
老子の口も手も、まだ上半身に留まったまま。
熱を持ち始めている場所には触れてこない。
「ん…っ…ぅ…ろぉし…っ」
焦れったい。
切羽詰った声で名を呼んでも、意地悪な顔がこちらを見るだけだ。
ぬるりと舌が滑る感触がして、濡れた水音が鼓膜を支配していく。
「ふ…ぁっ…や…老子ぃっ…」
中途半端な快楽に、嫌でも腰が揺れてしまう。
こんなのは嫌だ。
はやく。
はやく。
そうじゃないと溶けてしまいそう。
「どうしてほしいの…?」
くやしい。
なんでそんなに、余裕綽々なんだ。
私はもうギリギリなのに。
そんな風に言われたら、普段は言えない様な言葉を口走ってしまうぐらい、もう…本当にギリギリなのに。
「さ…わってくださ…」
「触ってるよ?」
「ちがっ…そこ…じゃなくて…」
「じゃあ、どこ?」
あぁもう!
今日の老子はすこぶる意地悪だ。
このまま黙っていたら、焦らされるばかり。
あの金の目が笑うばかり。
「――っ…!」
恥なんかかなぐり捨てた。
私は老子の手を取って、そのまま下腹部に導いた。
そこに老子の体温があるというだけで、言いようのない快楽が走る。
「っ……ここぉ…」
恥ずかしくてぎゅうと目を閉じる。
だめだ。老子の手に重ねた自分の手が震える。
お願いだから。
はやく。
はやく触って。
「申公豹。申公豹…かわいい。」
「――っあ…ぁ、は…っ…」
待ち望んでいた刺激に、身体がびくんと跳ね上がる。
まるで電気が走ったように。
ねぇ老子。
その指先に、どんな術をかけているのですか。
その指で、体温で、心で、貴方が私に触れるたびに
どろどろにとろけて、何も分からなくなってしまう。
でも同時に恐ろしいぐらいの安心感があって、だから私は拒めない。
もっともっと欲しくなる。
「ゃっ…――ん、んんっ…!」
身体が灼けるように熱い。
頂点に達した時、恍惚の中でただ思った事は、
貴方となら溶けたって構わない、ということだった。
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焦らしエロ。申公豹視点。
老子は意地悪でやってるのか、はたまた天然でああなのか、は謎です。
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