ぎゅっと閉じられた瞳を痛々しく思う。
私はどうしていいか分からずに、ただあの特徴的な黒点のある額を撫でた。
015 心から
「…くてんこ、黒点虎。…大丈夫ですか…?」
「…あ、たま、痛い…」
弱々しい声が返ってくる。
身体も丸くなってしまって、いつもの元気はどこにもなかった。
老子に聞くと、千里眼の所為だと言われた。
黒点虎は最近になって千里眼を覚えたのだが、制御が上手く出来ないらしい。
「見え過ぎる」というのは相当な苦痛のようで、見たくもないものがどんどん脳に流れ込んできてしまうのだという。
それに起因する頭痛、吐き気、熱。この症状がここ最近ずっと黒点虎を襲っていた。
目を閉じると少しマシになるようだが、ずっと目を閉じていてはいつまでたっても千里眼の制御ができない。
使う練習をしなければ、習得できないのだ。
「老子、なんとかなりませんか?」
「うーん…こればっかりは自分でコツつかむしかないからね…。」
「…そうですか…」
相棒ともいえる霊獣が苦しんでいるのに、何もできない自分を腹立たしく思った。
変わってあげられたら、どんなにいいだろう。
「…すみません。」
「…?どうして謝るの…?申公豹、何も悪くないよ。」
「何もしてあげられませんから。」
くやしい、なんて感情を抱いたのは久しぶりだった。
くやしい、くやしい。あなたがこんなに苦しんでいるのに。
「そんなことないよ。」
「…?」
「最近ずっと傍にいてくれるし、いっぱい頭撫でてくれるし。あのね、申公豹が頭撫でてくれると、ボク少しだけ頭が痛くなくなるんだぁ。」
目を閉じたまま、嬉しそうに黒点虎がそういうのを聞いて、胸がほわっと暖かくなるのを感じた。
何か新しいことが出来た時のように嬉しかった。
「そうですか?」
「うん、そうだよ。」
「…じゃあ、もっと撫でます。」
「やったぁ。」
そろそろと、黒点に手をやって、撫でる。
何回も何回も、苦痛が和らぐように願いを込めて。
ふと横を見ると、老子が遠くの方でこちらを眺めて微笑んでいた。
私は不思議に思いながらも、その理由を尋ねることはなかった。
今はどうか「いとしい」霊獣が、少しでも早く元気になりますように。
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特殊能力保持者にありがちな苦悩を書いてみました。
千里眼使いこなすまで苦労してたら萌えるなぁ…と、突発で。
最後に老子が微笑んでるのは、なんとなーく感情豊かになってる申公豹を微笑ましく思ってるからです。
2010/4/10
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