*もしも太上老君が中小企業の社長で、申公豹が専属秘書だったら。
   018 私は最大限努力します
  「社長。…社長!」
  返事がないので申公豹は社長室の扉を少々乱暴に開いて足を踏み入れた。
  見れば書類の散乱した机に顔を突っ伏して太上老君が熟睡している。
  その様子に申公豹は手帳を持っていた手をぶるぶると震わせて、そのまま太上老君の頭を引っ叩いた。
  「起きなさいっ!!今何時だと思ってるんですか貴方はっ!?」
  「いっ―――!?」
  すこーん、と小気味いい音が響いて、太上老君は顔を挙げた。
  頭には鈍い痛み。
  叩き起こされたのだと理解した太上老君は少しむっとした表情を作ったが、般若のごとく怒っている申公豹が視界に入ると「げっ」と声をあげて苦笑いを浮かべた。
  
  「し、申公豹…おはよう」
  「おはようじゃありません!さっさとその下敷きなっている資料に目を通して判を押してくださいっ、あと30分でA社の方が来てしまいますよ!?」
  「え、嘘。もうそんな時間?」
  太上老君は掛け時計に目をやった。午後1時30分。
  確かにあと30分でA社の取引担当が来る。
  わーお、と声を上げた太上老君に申公豹が隠す様子もなく溜息をついた。
  「全くもー…目を離すとすぐこれなんですから。私は始終あなたにひっついてるわけじゃないんですよ?」
  私が休みの日に大事な仕事が入ったらどうするのですか、と申公豹は言った。
  ここは都心の郊外に居を構えるとある中小企業。
  社長は目の前で寝ぼけ眼をまだこすっている太上老君。
  容姿端麗、文武両道、若くして会社を興したいわゆるカリスマ。
  唯一にして最大の欠点はとにかくずぼらでスケジュール管理が全くできないこと。
  そんな彼の欠点(というかもはや汚点)を補っているのが今も怒り過ぎて息が上がったままの彼の専属秘書、申公豹である。
  「ごめんごめん。大丈夫、あとこれ1枚だけだから。」
  「むしろなぜその後一枚を残してしまうのかが私には謎です。」
  せめて最後まで終わらしてから寝てくださいよ、と申公豹は銀縁フレームの眼鏡を上げながら言った。
  申公豹は別に近視でも乱視でもなんでもない。
  なのになぜ眼鏡なんかかけているのかというと「若く見られてなめられるのが気に食わないから」らしい。
  若くみられるも何も、申公豹はまだ24歳で十分若い。
  ただ、中性的で少し幼い容姿も加わって初対面の人には大抵20歳ぐらいに見られる。下手したら10代?なんて聞かれる。
  太上老君は、「別にいいじゃない」と言うのだが、本人のプライドが許さないらしい。
  そんなこんなで申公豹は大概ダテ眼鏡をかけている。
  彼は若いが非常に頭が良く、機転がきく。
  だから太上老君は彼を自分の専属秘書にして、非常に可愛がっている。
  ただし、可愛がっているの方向が他の人よりかは少しずれているかもしれない。
  「はい、おーわり。」
  ぱた、と万年筆を机に転がした太上老君が、大きく伸びをした。
  浅葱色の少し長い髪が、身体の動きに合わせて揺れる。
  「あ。」
  申公豹がそんな太上老君の様子を見て、小さく声を上げた。
  「なぁに?」
  「髪、跳ねてます。」
  「え、どこ?」
  ぱふぱふ、と太上老君は頭を触るが全く見当違いのところだったらしい。
  申公豹は机に近づいて、浅葱の髪に手を伸ばした。
  「ここですよ、ここ。…あーもう、ネクタイも歪んでますよ?」
 
  体をかがめて、申公豹が太上老君のネクタイに手をかける。
  すぐ近くにある顔はまるで人形のように端正で、肩より少し上の白金の髪からは、どこか甘い匂いがした。
  「はい、できまし…」
  た、と太上老君の顔を伺い見ると、突然顔を引き寄せられた。
  カツンと眼鏡が当たる音と共に、唇が合わさる。
  ガラスの奥の群青色の大きな目は、こぼれそうなほど開かれていて、何が起こったのか分からない様子だった。
  「…ごちそうさまー。」
  にこ、と微笑んだ太上老君が申公豹の唇を離す。
  しばらく呆けていた申公豹だったが、はっと我に返って耳までその顔を真っ赤に染めた。
  「な、なに…なにするんですかばかぁっ!!」
  ばしん、と社長室に乾いた音が響く。
  太上老君の頬に、真っ赤な手の跡が付いていた。
  現在午後1時50分。来客まで、後10分。
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  残り10分でどうやって手形を消そうかワタワタする申公豹が見えます…(´・ω・`)
  もしもシリーズ専属秘書。リアタイで滾ったので!
  リアタイで書いた話もアップ出来たらいいなーとは思ってます。
  10/12/5
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