その肌は雪のように白く、その瞳は血のように赤く。





   027 どんな束縛も







  「あんまり外に出てはいけないよ、申公豹。」


  過保護な師が眠そうな瞳で咎めてくる。
  私は彼を一瞥して、そして溜息とともに吐き出した。


  「あなたまで、まだそんなことをおっしゃるのですか?私の防護壁は、紫外線を遮断しますよ。確実に。」
  「別に疑っているわけじゃ、ないけれどね。それでも日光が眩しいでしょう?」
  「そう嘆く私に、あなたが寄越したのではないですか、これを。」


  私は自分の瞳を指さした。
  そこには薄い膜でおおわれた、真っ黒な瞳がある。しかしその奥の本来の瞳は、紅色である。
  カラーコンタクトに似たその膜は、サングラスで視界が限られてしまうことを嫌う私に老子が与えてくれた物だった。
  普通の物とは違って、装着すると幾分光を遮断してくれる。


  私はアルビノだ。
  白金の体毛と、白い肌と、紅色の瞳をもっている。紫外線を遮断できず、日光は眩しすぎる。
  道士になる前は、それらを克服する術を持たず、昼の世界は文字通り私には眩しすぎた。
  質素な庵の中で、あの輝く太陽の下を、思う存分駆ける日を夢見ていた。
  今はそれが出来るようになった。
  仙力の消費は激しいが、防護壁を常に張り続けることで私はあの太陽のもとを駆けれるようになり、文明の利器は光の眩しさを和らげてくれる。
  つまり、私が昼に外を出歩くことに何の問題もないはずなのである。
  それなのにこの師匠といえば、私が日の下を歩くことを何故だか嫌うのだ。


  「ああ、もう、そうだけれど…。君って子は、分かってないね。」
  「なにがですか!」


  分からないのはこっちの方だ。
  焦れて叫ぶ私の視界を、橙の服が一瞬にして覆ってしまった。
  つまりは後ろから抱きこまれた。
  こんな時にだけ、この師匠は俊敏な動きを見せる。


  「その赤い目を隠したって、君がアルビノなのは一目瞭然なんだよ?申公豹。」
  「分かっていますよ、そんなこと…っ」
  「いいや分かってない。アルビノはある地域では吉凶の印であり、またある場所では神の使いだということを。」
  「私の最強の道士の冠は、飾りではありませんが。」
  「こんなに簡単に背後取られておいて?」
  「っそれは…!」


  貴方だからでしょうが、と老子の腕を振り払う。
  つまりこの師匠は、私がそこいらのアルビノ信仰家に捕えられ危害を加えられることを恐れて、先のような忠告をしているわけだ。
  しかし私がこんなに簡単に背後を取られていまう相手など、目の前の人物をおいてこの世にほとんど存在していないのが事実である。
  だから何度もいう様に。私が外に出ていくことに、問題などほとんどないはず、なのだ。


  「ほんとに分かってない。」
  「ちょっ…っなにを、」

 
  壁に身体を押しつけられたと思ったら、瞬く音が聞こえそうなほど近くに金色の目がやってくる。
  はっと息を吸い込んだ瞬間に、唇を塞がれた。
  生温い舌が、私の舌を追いかける。
  逃げても逃げても、角度を変えて割り入って、息を奪って、絡め取られる。


  「ふ…っぁ、はっ…んん…っ」
  「私はね、申公豹。こんなに綺麗な君を、」


  「誰にも見せたくない」


  「触らせたくない」


  「同じ空気さえ吸わせたくない」


  「私 以外の 誰にも。」




  分からないのは、そこまで私にこだわる貴方の心と。
  その言葉に少し、歓喜する、私の心。











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  完全版表紙見てると、あの真っ黒おめめの下に、真っ赤な目が隠れてたら滾る!
  とかおもってしまったのでアルビノ申公豹。
  アルビノに関する情報はほぼウィキさんからです。
  老子がヤンデレ気味。



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