めんどくさいし疲れるから、と滅多に使わない空間転移を老子がわざわざ使って私たちは家まで戻ってきた。
  床に着地した途端にぐらりと傾いだ老子の身体に目を見開く。


  「っ、老子?」
  「ごめん…久しぶりに転移なんてしたから感覚が…。なんでもないよ。」


  そう、笑って老子が答える。
  しかし久しぶりに使用したからといって師ほどの人物が数回の転移でふらつくなんて不自然だ。
  怪しんででその顔を見上げると、絡んだ金色の目はどことなく潤んでいて目元もほんのりと朱い。
  そういえば…香を壊して部屋に入ってきたとはいえあの部屋には十分に香の匂いが充満していたはずだ。全く吸うことなくいられたとは考えられない。
  しかもあの香、力が強いほど効果が出るとか何とか言っていたのではなかっただろうか。


  「…。老子、あなたもしかして…発情してます?」
  「発情ってキミね…。あー…もう、せっかくなんでもないって…言ってるの、に…」


  もう限界、と老子はそのまま床にずるずると座りこんでしまった。
  隠す必要がなくなったからか、一気に呼吸が乱れている。


  「はぁっ…も…これ、なんなの?身体…めちゃくちゃ熱いし…ざわざわする…。」
  「あの部屋に焚いてあった香に痺れ薬と媚薬を混ぜ合わせたような効果があるんです。しかも仙人専用で、能力が高いほどよく効くと。」
  「なにそのチート効果…。やっぱり、あの香炉か…壊して正解だった、わけだね…、っ…」


  荒い呼吸が熱を帯びる。
  長い睫毛を震わせて、きゅうっと眉根を寄せた表情に、どくどくと心臓の音が速くなる。
  なんとかしなければ。
  元をただせば油断して捕まった自分の所為なのだから。
  でも、なんとかするって言ったって、方法は一つだけだ。


  「あ、の…老子…その…」
  「んー…?」


  とろりと、熱を孕んで潤む金色の瞳がこちらを見る。
  ただ視線を流しただけのその仕草がはなつ、とんでもない色気に心臓が跳ねがった。
  うっすら汗ばんだ肌も、上気した目元も、薄く開かれた唇も、全てが暴力的なまでに色っぽかった。
  こんなのを見せられて平常心でいられる奴がいるのならみてみたい。


  「シ、ますか…?」
  「へ…?」
  「だから、その…セッ」


  言い終わらないうちに押し倒されて、次の瞬間には固い床が柔らかい寝具に変わっていた。
  どうやら寝台まで転移したらしい。
  寝室なんて歩いてすぐだったのに、その距離を移動するのも億劫だったようだ。
  目前に迫った端正な顔には笑みが浮かんでいたけれど、いつものような余裕は感じられなかった。


  「止めてって言っても、止めてあげないからね。」


  望むところです、と呟く声は荒っぽい口付けに飲み込まれていった。









  かつてこれほどぐちゃぐちゃになったこともないだろうな、とほとんど動かなくなった思考の片隅で申公豹は思った。
  汗と唾液と精液とで、身体はもちろんのこと寝具も散々な状態だった。
  しかしそれよりも散々なのは、目の前の師か。それとも私か。


  「今…どんな、感じ…ですか?」
  「うーん…前頭葉が全く働いてない感じ…?」


  つまり全く理性がきかないということか。
  あれから何回出したり出されたりしたのか分からないが、とにかく普段ならとっくに疲れて眠っている頃合いだった。
  にもかかわらず体内に挿入ったままの老子のそれは萎える気配がない。
 

  「どれだけ、絶倫なんですか…その体力もっと違うことに回した方がいいと思いますよ。むしろ回さないからそんなところに集中してるんじゃっ、あ、ふぁあっ!」
  「あの香のせいでしょ…っ、私だって、持て余し、てるよっ」
  「ひっ…や、待っ…!」
  「待てない…っ」

  
  前立腺めがけて正確に穿ってくる楔に、ぐずぐずにとろけきった下半身は息が止まりそうな快楽を生みだした。
  飛びそうになった意識を、なんとか手繰り寄せる。
  先程中で出されたばかりの精液が律動に合わせて太ももを伝い落ちてくるのも、ぐちゅぐちゅと部屋中に響く水音も卑猥なことこの上なかった。


  「はっ…あ、――ぁ…?」
  「…どうかした?」


  繰り返される律動の中で、急にぞくりと背筋を何かが通り抜けた。
  今まで感じたことのない感覚に、焦って老子の腕を掴む。


  「ぁ…ま、待って…くださ…動かないで…っ」
  「どうして…?」


  ぐちゅん、とワンストローク。
  先程より鋭敏に背筋を何かが通り抜ける。
  身体がばらばらになってしまいそうなほど、それはひどく甘美な感覚だった。


  「申公豹…キミ、もしかして」
  「っあ、や、ぁあっ、おねが…っろうし…!」


  いつのまにか溢れた涙を老子の舌先が舐めていく。
  霞んだ視界で見えた彼の顔は快楽に上気したまま、にやりと意地悪そうに微笑っていた。
  瞼にキスを落として、また腰を揺さぶられ始める。


  「ふぁあっ…あ、ァ…っ、だ…め、も…出な…っ」
  「そうだねぇ、いっぱい出したもの、私も、キミも。」
  「出な…っの、に…、ひ…ッ…!」


  おかしい、絶対にもう出ないってわかってるのに。
  背中をざわざわと駆け昇ってくる快楽は止まってくれない。
  汗でぬめる氏の背中に爪をたて、がむしゃらにシーツをかきむしった。


  「〜〜〜…ッあ、ぁア!!」


  びくびくと身体が痙攣する。
  一回出したらはいおわり、な射精とは全く違う。断続的で尾を引く快楽。
  目の前が真っ白になって意識を飛ばしそうだった。


  「う、わ、すっごい…締まる…っ」
  「ひ、んっ…ぁ、やぁっ、動か…な、…またぁっ…!」


  うねる波のように、気持ちよさが押し寄せてくるようだった。
  大きい波や小さい波が私という岸壁にぶつかって、快楽を伴って弾ける。
  老子が動いてなくてもそんな状態なのに全く遠慮せずに腰を進めてくるものだから、さんざん喘いで乱れて、ついに私は意識を飛ばしてしまった。











  あの後老子も眠ってしまったようで、起きたら精液が固まってがぴがぴになっていた。
  あまりの不快感に閉口する。
  当然のように身体は鉛のように重く、シャワーを浴びたいのにしばらく動けそうもない。
  大きく溜息をつくと隣の身体が身じろいだ。


  「んん…」
  「起きてますか。」
  「ううう…なにこれ、めちゃくちゃだるい。身体動かない。」
  「私はその二乗くらいで疲労困憊です。満身創痍です。」
  「あはは…。」


  乾いた笑いが響く。
  互いにしばらく沈黙していると、するりと手が絡んできて、そのままきゅっと握られる。
  先程の暑いくらいの熱は静まって、じんわりと陽だまりのような温もりがあった。


  「気持ちよかった?」
  「それをききますか…。聞かなくても分かってるでしょう…。」
  「まぁねえ…最後の方、ずっとドライでイってたでしょう?申公豹。」


  にやにやと、楽しそうに聞いてくる顔面を手で押し返した。
  腹立たしい事この上ないが元は自分でまいた種なので何も言えない。
  

  「…あなたのせいで、どんどん身体が造りかえられている気がしますよ。」
  「殺し文句だなぁ。」
  「?」
  「あー…ああ、もうわかってるよ…君にその気がない事くらい。ほんと無自覚って怖い。」

  
  ああ恐ろしい恐ろしい、とよく分からないことを言って老子がぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
  抵抗する体力も残っていなくて、されるがままにされていると胸の内にそっと閉じ込められる。
  耳元で拍動が聞こえる。
  生きている音。私を生かす音。


  「ねぇ、冗談でもどうせ死ぬならなんて言わないでね。」
  「おや。割と本音ですよ。あなたに殺されるなら本望ですから。というかあなた以外に不覚をとりたくありません。」
  「うーん…嬉しいような、嬉しくないような…。」


  困ったような笑い声とちょうどいい体温。
  また瞼が重くなってきて、私はうとうととその優しい揺りかごに身をゆだねるのだった。


   





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  ね、年内に書きあげられて良かった…。
  ムラムラする老子とドライオーガズムを書くことに必死だった後半ですがなかなか表現が上手くいかず…
  こう、悶える様なえろが書けるといいのですが、難しいですね!
 
  題名活かせてるんか?いう感じですが、毎度のことなのでそっとしておいてください(´・ω・`)
  長々と読んで頂きありがとうございました!





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