030 ほんの些細なこと
それなりの頻度で私の家を訪れる、忙しいのかそうではないのかよくわからないあの薬剤師は、
意外(でもないかもしれないけれど)に「これから行く」という連絡は寄越してこない。
合鍵を渡しているので大学やバイトから帰るとソファで寝こけていたり、夕飯を作っているとやってくるから急きょ2人分の材料を用意することになる。
今日は日曜で、時間はお昼すぎ。
相手のシフトは知らないし、土日休みの仕事でもないので休みなのかどうかも分からない。
携帯の番号は知っているけれど、そこまでして確認するようなことでもないと思う。
「にゃぁ…。」
膝の上にのっているクロが小さく鳴いた。
テレビからは知らない人の笑い声がする。
部屋の中はモノトーンで、温度は少し肌寒いが外の天気は良い。
別になんてことないのだ。
お腹はすいていないし、洗濯も掃除も午前中に終わらせたし、今日はバイトも珍しく休み。
別になんてことないのだ。
あなたの声がしなくたって、あなたの顔が見えなくったって。
酸素が尽きるわけでもないし、明日世界が終わるわけでもない。
「…別に、なんてことない。」
ただ少し声が反響するだけで。
ただ少し…返事が返って来ないだけで。
別になんてことない。
…けれど、出来れば今日も、来てほしい。
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短め。ちょっとセンチメンタル。
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