032 あなたを取り巻く世界を見ています
午前9時ちょっとすぎ、起床。
ボクじゃない。ボクの主人の話ね。
今日は休日…らしい。猫には毎日休日みたいなもんだから良くわかんないんだけど。
ボクの主人の名前は申公豹っていう。
申公豹は起きてすぐにはベッドから降りない。
ベッドの上で半分身体を起こして、しばらくぼーっとしてる。
多分低血圧ってやつ。
しばらくしたらもそもそ起きてボクの指定席になっちゃったソファまで来てくれる。
「…おはよう、クロ。」
「にゃぁ。」
おはよう。
僕はもう少し前に、起きてたんだけどね。
またすぐ寝るけど。
あ。
パンの焼ける匂い。
ひょっこりテーブルを覗き込むとトーストが半分とコーヒー。
…小食だなぁ。
ただでさえ細いのに、大丈夫なのかな。
ボクはいつもどおり某メーカーの食事。
美味しくもないけど不味くもない。
申公豹がくれるならなんでもいいや。
午後11時、申公豹はヒマそうに読書中。
今日はどこにも出かけないのかな?
だったら構ってほしいな。
「…にゃぁー。」
「なんです?ヒマなのですか?」
うん、そうそう。
申公豹が撫でてくれると気持ちいい。
背中とか、顎の下とか、いろいろ。
「にゃぁ…。」
「…かわいいですね、おまえは。」
…。…申公豹の方がよっぽどかわいいと思うけど。
だって、肌綺麗だし、目も大きいし、髪は太陽に当たると眩しいくらい光る。
「色」が見えたらよかったのに。
きっと瞳も髪も綺麗な色をしてると思うんだ。
猫のボクから見ても綺麗なんだから、人間から見たらもっと綺麗なんじゃないの。
ん?
なに?なになに。
「ふにふにで気持ちいいです。」
…ボクは、くすぐったいよ、申公豹。
肉きゅうって気持ちいいの?
それは歩くときに音を立てないために…あるんだけど…。
…まぁ、なんか幸せそうだし…いっか。
ふぁああ…よく寝た。
今何時だろ。
午後6時。…うわ、寝すぎた。
申公豹は…って…なんでアイツいんの。
「ねぇ、今日ご飯なに?」
「なんですか貴方は、たかりに来たんですか。収入いいくせに。」
「だって申公豹の料理おいしいんだもん。で、なになに。」
「…肉じゃが。」
リビングまで行かなくてもわかる。
しょっちゅう来る申公豹のコイビト。
確か名前は「ろうし」とかそんなんだったと思う。こいつも申公豹に負けないくらい端正な顔をしている。
でも、なんか苦手。
だってこいつが来ると申公豹がボクにかまってくれなくなる。
撫でてくれたりはするけど、心がこっちを向いてない。
それに。
「手伝おうか?」
「いいですよ、あと少しですから…ってちょっと!」
「なぁに。」
「後ろから抱き締めないでくださいっ、邪魔です、退いてください。」
「いいじゃない、ちょっとくらい。」
「っみ…耳元で、喋らないでください…っ」
それに、申公豹にすぐいかがわしいことするから。
油断も隙もありゃしない。
「弱いの?耳。」
「よ、弱くなんか…っ」
「ふぅん…。」
「っや…!?」
ボクの、ご主人に、ヘンなことしないで、よっ!
がぶっ。
「ッ〜〜〜!!」
「…老子?」
「また…噛まれた…。」
「?…クロ!」
足首に思いっきり噛み付いてやった。
でもこいつも毎回毎回よく懲りないなぁ…。
そこだけは尊敬に値するかも…。
「ありがとうございます、お前のおかげで助かりました。」
「なにそれー私が悪者みたいじゃない。」
「…変態は黙っててください。」
「う…手厳しいねぇ、今日も。」
さっさと料理を盛り付けてテーブルまで運んだ申公豹は、ボクをひょいと抱き上げて頬にキスをくれた。
どうだ。羨ましいでしょ?薬剤師のオニイサン。
午後10時。あいつは帰っていった。
どうやら二人はまだ「健全なおつきあい」…らしんだけど、健全な付き合いで耳に舌入れたりするかなぁ?普通。
シャワーの音。
申公豹は今お風呂。
もうすぐ申公豹の1日が終わる。今日も長いようで短かった。
ボクはソファの上にお気に入りのタオルを銜えて運んできて、いちよう寝る準備。
夜行性だけど。
午前0時。申公豹がこっちに来た。
「おやすみクロ。良い夢を。」
毎晩そう言って、頭を撫でてくれる。
寝室に行く申公豹の背中を見送った。
「にゃぁ…。」
おやすみ、申公豹。ボクより良い夢を。
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…途中で猫が色盲だったことを思い出して焦って書き直しました;
黒点虎のお気に入りのタオル、というのは拾ってもらったときに身体を拭い
てもらったあのバスタオルのことです。
それにしても老子をあいつとかこいつ呼ばわりするのは抵抗あるなぁ…
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