040 たとえ 自己満足であっても





              「んっ…ふ…っ…くすくすっ…」


              真剣に、それはもう真剣に情交に励んでいたのだが、シーツの上に白い身体を投げだした、
              僕の下にいる申公豹が耐え切れない、というように笑い出したので、僕は行為を中断せざるを得なくなった。


              「な、なんです?」
              「はっ…だ、めです動いちゃ…っ!」


              そうして、タガが外れたように彼は笑い出す。
              どれくらい笑ってるかって、目の淵に涙が溜まるくらいだ。
              もう。僕は真剣なのに、何がそんなにおかしいんです?


              「…かみが…」
              「髪?」
              「貴方の髪が、肌に触れてくすぐったくって…」


              そう言って、申公豹が身体をよじった。
              見てみると、確かに僕の長い髪は、彼の白い肌の上に掛かっている。
              動くと擦れてくすぐったかったのだろう。


              「あ、すいません…気付かなくて。」
              「いえ…いいですよ。くくってくださると助かります。」


              笑ったままの表情で、溜まった涙を拭いながら申公豹は言った。
              僕は彼の要求に応えようと、髪留めを探す。
              手ごろな物を見つけて、髪をくくった。


              「これでどうですか?」
              「結構です。ありがとうどざいます、楊ゼン。」


              にこり、といつものように彼独特の口元の笑み。
              ただいつもと違うと言えば、これが(若干興が削がれてしまったとはいえ)情事中であるために、
              彼の顔は上気し、目が少しとろけているという事。
              笑った所為で拍数の上がった彼の心臓に合わせて白い胸が上下する。
              その白さに毎度の事ながら眩暈を覚えて、誘われるように唇を寄せた。


              「んっ…」


              柔らかで滑らかな肌の上を、僕の唇が動くたびに申公豹はひくんと体を跳ねさせる。
              何回事に及んでも、そこはいつも同じ。


              「そうですよねぇ…申公豹は敏感ですから、くすぐったかったですよね?」
              「ぁ…は、ぅ…?」


              そうして彼の肌の上で喋ると、またかかる吐息に白い肌は震える。
              「敏感」を強調して言った僕の言葉に含むものを感じたのか、疑問符を飛ばした顔で見上げられる。
              そーいうかわいい表情されると嗜虐心がわくんですよ、と教えたいような、教えたくないような。


              「だってそうでしょう?…こうやってすぐ、勃っちゃいますし…ね?」
              「なっ…!」


              反応を示し始めた彼の性器に指を這わし、かぁっと頬を赤らめた彼を見る。
              そのままきゅぅと柔く握りこむと、銀の柳眉は切なげに寄せられ、群青の瞳は甘くゆがんだ。


              「やぁ…あ…楊、ゼ……」


              薄く開かれた薄紅の唇からはうっとりするような甘い声。
              その声で名前を呼ばれるのがどんなに嬉しいか、貴方は知っているんだろうか。
 

              とろりと先走りの液が滲んできた先端に指の腹を押し付けて焦らすように動かすと申公豹はひくひくと体を震わせて、
              快楽に耐えるように手元のシーツを掴んだ。


              「ゃ…あ、はぁっ…ゃ、あ…っ…」


              白金の髪をはらはらと乱して、そんな刺激はもうごめんだと言わんばかりに首が振られる。
              これ以上焦らしてたら怒られるかな、と思いつつも、追い詰められたような表情がこちらの欲を煽るものだから
              止められない。


              「…どうですか?」


              少し意地悪に、そんな質問をしてみる。
              横を向いた顔の、群青の瞳がゆっくりとこちらを向いて、考えるように数度動かした唇から言葉がもれる。




              「…狂、い…そう……」




              ただその動作に、どれだけこちらが煽られるか、この方は分かってやっているのか、いないのか。
              少女のように無垢で幼い仕草をしたかと思えば、次の瞬間にはぞっとするほど妖艶に、彼は微笑んでいたりする。
              そのギャップに目を奪われ、息を止められ、意識を灼かれ、僕は振り回される。
              

              敵わない、といつも思う。









              きゅっと唇を結んで、ぱらりと僕はさっき束ねた髪を解いた。


              「楊ゼン…?」


              だって、敵わないなんて、くやしいじゃないか。


              「…思ったんですけど、貴方を、くすぐったさなんか忘れるくらいこの行為に夢中にさせれば、
              髪が肌にかかろうと構わないですよね?」
              「え…、ちょ…っ」


              途端に逃げ腰になった、細い腰を強引に引き寄せて。
              白い脚を掴んで、奥の奥に指を穿って。
              緩んだそこに熱い熱を押し入れて。
              そうして溺れさせてみようじゃないか。
              敵わない貴方に、敵う僕になってみようじゃないか。



              …こんな卑怯な方法だけど。












              「っは…、よ…ぜんっ…」
              「もう…くすぐったく…ないでしょう…?申公豹…。」


              息の整わない彼を、待つこともなく腰を動かす。
              もう覚えきってしまった場所を焦らすこともせずダイレクトに突き上げると、一層高い声が上がった。


              「ッ…っあぁ!…く、すぐったく…ない、ですからっ…ぁっ…もっと…ゆっ、くり……」
              「今日は…ダメです…、っ…こーいう気分、なので…。」


              息が整はないのは僕も同じ事で、掠れる声を隠すように目の前の体を抱き寄せてキスをした。


              「――んんっ…!」


              一層深く繋がった内部の圧迫感に、申公豹が堪らず声を上げる。
              その甘美な声を喰い尽くす様に僕は彼の口を塞ぎ続けた。
              息苦しさと快楽と、諸々の感情を含んだ大粒の涙が群青の大きな瞳から零れ落ちる。
              唇を離すと、ほとんど焦点の合っていないとろけきった目にキスを落とした。


              「は…、ぁ…っ…」
              「狂いそう、なんでしょう…?」
              「…そ…です、よ…。…どうにかなって、しまいそう…です…」


              ふわりと笑って、きゅぅぅと下肢が締め付けられる。
              絶妙のタイミング。
              意識してやっているのかと思えば、そうでないと知ったのは少し前のこと。





              あぁ、もう、やっぱり…敵わないなぁ…。





              オルガスムスに、もう少しでたどり着く。
              敵わない貴方に何とか追いつきたくて、僕は貴方の壮美に誘われ、今夜も溺れるのだ。














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             中途半端な終わり方ですいません。
             力尽きました。
             夏だから、やや激しめに…とか思ったんですけど、あんま変わんないですね。
             切羽詰ってる申公豹はいいと思います…普段冷静なだけに、こう、ねぇ?(笑)

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