062 どうすれば
「…なんですか、ここは。」
「うーむ…まるで見当がつかぬのう…。」
気付いたら二人、同じ場所で倒れていた。
見渡すと一面、白、白、白。
気持ちが悪いほど真っ白い空間には一応壁と天井と床らしきものが存在しているが、窓と扉が一つもない。
まるで立方体の箱の中だ。
壁に近づいた申公豹が、壁をたたく。コンコンと軽い音がした。
「案外、脆そうですよ?壊しましょうか。」
「な、お主そんな乱暴な…」
「こんな意味の分からない狭苦しい所に居てられますか。さっさと出ますよ!」
そう、申公豹が懐から雷公鞭を取り出して振りあげたその時、天井からヒラヒラと1枚の紙が落ちてきた。
太公望が掴んだそれを、二人して覗き見る。
『白い部屋へようこそ!
この部屋はとっても特殊な造りになっていて、ある条件をクリアしないと絶対に出られないよ。
今回この部屋から出る方法は…ジャジャーン!
お二人がキスをすること!とっても簡単。ただそれだけ。
ただし何かを間にはさんだりとか、間接的なものは認めないからね。
ではお二人さん、頑張ってね!』
短い文面を読み終わり、2人して固まって、先に動き出した太公望が横目で申公豹を見ると
怒っているんだか焦っているんだか、何なんだかよく分からない表情の彼が口をぱくぱくと開閉させていた。
「こ…っこんなふざけた設定、信じてたまりますかッ!!」
「ちょ、待て待て待て落ち着かんか、申――」
「――雷公鞭っ!!」
太公望の制止も空しく、放たれた雷は2人以外を見事に覆って炸裂した。
ガォンと耳に痛い音と目がくらむ光で部屋が満ちる。
部屋全体が大きく揺れ、立っていることもままならない。
揺れがおさまって目を開けると、そこには見慣れた外の風景と壊れた箱…ではなく先程と寸分変わらぬ真っ白い空間が広がっていた。
「ありえないです…。」
「お主の行動がありえぬわっ!こんな狭い空間でぶっ放すかふつー!?」
太公望の必死の叫びも、頭を抱えた申公豹には聞こえていないようだった。
いまだに光に眩む目を擦り、傍らの腕を掴む。
「な、なんです?」
「何とは。ここに書いてあるではないか、キスをすれば出られると。」
腕を掴んで太公望がにじり寄ってくる分だけ申公豹の身体は後ずさる。
しかし所詮は狭い箱の中、すぐに逃げ場はなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと…あなたこそ落ち着いてください、太公望。」
「わしは落ち着いているぞ。なぁに、一瞬で終わるではないか。」
「っ…!」
段々と狭まる顔の距離とかかる吐息に申公豹がぎゅっと身を固くする。
うっすらと額に汗を浮かべて身を縮めているその姿がなんともいじらしくて、太公望はうっすらと微笑んだ。
ちゅっ。
「へ…?」
頬に柔らかく当たった唇の感触に、申公豹は目を開いた。
目の前にはしてやったりと笑う太公望。
そこで申公豹は初めて気がついた。キスをしろとは書いてあったが、場所の指定はされていなかったということに。
あの後、急に意識が遠のいて、そしてまた浮上した。
気がつけば二人また、同じ場所に倒れている。
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そして冒頭に戻る。
n番煎じな○○しないと出られない部屋。
太申は太公望が申公豹に振り回されてるイメージですが、申公豹が振り回されてるのもいいかな、と。
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