浅葱色の髪は芽吹いたの森のようで
金色の目はそれを照らす太陽のようで
なんて自分と違うのだろうと、初めてあなたを見た時は見惚れたものだ。
064 教えてください
仙人界に来てから、もう随分と年がたった。
一人じゃない朝にも慣れてきたし、下(人間界)よりも澄んだ空も水も珍しくなくなった。
私の師匠はとても怠け者で、私の庵に甲斐甲斐しく足を運んでいた人物と同じだと思えない程よく眠る。
今日だってそうだ。
広い寝台の上で、ぬくぬくと布団にくるまって、微かな寝息を立てている。
頬に触れると、私よりずいぶん暖かい温度が伝わってきた。
そのまま指先を滑らせると、顔に掛った髪が触れた。
浅葱の髪は柔らかくて綺麗なのに、ろくに手入れもしないから、所々はねっぱなしだ。もったいない。
色素の薄い、瞼の向こうには金色の瞳がある。
それはとても珍しいと思う。少なくとも老子以外で金色の目は見たことがない。
人と目を合わせるのは居心地が悪いけれど、老子の目はいつまでも見ていたいと思う。
それなのに、見ているうちに、こちらの想いが見透かされるような気がして怖くて目を逸らしてしまう。
金の瞳は禁忌だという話を聞いたことがあるけれど、老子の目を見てるとあながち嘘でもない気がしてくる。
怖いほどに、魅力的。不思議な色をした瞳。
「申公豹、なにしてるの?」
老子の寝台のそばに立っていたら、後ろから声がした。
「ク…じゃなくて……黒点虎。」
「別にクロでもいいのに。」
「……いえ、私も…“申公豹”になりましたから…おまえのことも、黒点虎と呼びたい、と思うようになったのです、最近。」
「そーいうんもん?」
「そういうもの、です。」
「ふぅん。ま、ボクは申公豹に呼ばれるなら、何でもいいけどね。」
すり、と柔らかい毛並みが肌に触れる。
隣にやってきた黒点虎の、私の身の丈ほどある大きな体に、少し寄りかかって額を撫でた。
「…で、なにしてるの?お得意の観察?」
「外れてもいませんが、正解でもありません。」
悪戯っぽく言うと、どういう意味?と黒点虎が首を傾げた。
「観察しながら、思案してました。」
「…なにを?」
「暇つぶしの、方法です。」
私は一度口角を上げると、居間に向かって歩いた。
戸棚をごそごそと漁って目的のもの見つけると、また寝室に戻る。
「…硯と、筆?」
「ええ。あまりにも気持ちよさそうに眠っているものですから、落書きしたくなりました。」
「えぇええ?意っ外ー、申公豹でもそんなことしたいと思うんだー。」
「おや、私は真面目な優等生ではありませんよ?」
そう言ってまた、口角を上げる。笑顔は少し苦手だから、上手く笑えているか良く分からないけれど。
私が笑うと老子も黒点虎も笑い返してくれるから、それで満足だ。
硯に墨を丹念に摩る。
どうせやるなら濃いめだ。時間はたっぷりあるのだから、ゆっくりやればいい。
段々濃くなっていくそれを、黒点虎が隣でわくわくしながら見ていた。
「こんなもの、ですかね。」
「わぁ、ねー、早くしようよー!」
楽しそうに、黒点虎が言う。
大声を出したって老子が起きないのは分かりきっているけれど、これは悪戯だから、自然と声が小さくなる。
たっぷり墨を染み込ませた筆を持って、そぉっと近寄る。
筆を振り上げて、
いざ!
「ねー、申公豹?何描いてるの?見えないよ。」
「すぐ出来ます、よ…………と。はい。」
できました、と私が身体を避けると、黒点虎が老子の顔を覗き込んで、噴き出した。
必死にこらえようとしているが、思いっきり声が漏れている。
そんな黒点虎の様子を見ていたらふっと顔が弛んだ。
さっきより自然に笑えた気がした。
「あは…はっ…ねぇ、これ!申公豹と、一緒の…っに、似合わなさすぎー!!」
「黒点虎、笑いすぎです。」
「だって、だって…っ」
そこまで笑う必要なわないと思うのだが、黒点虎のツボに入ってしまったようだ。
私がした落書きはそんな大層なものではない。
ただ私の頬にある四印と、同じように四つの点を描いただけ。
初めてあなたを見た時、なんて私と違うんだろうと思った。
「も、ほんと、似合わないねー、老君。」
本当、似合わない。
貴方にこんな罪の印は似合わない。
私と貴方はこんなにも違う。
…ねぇ、私は 本当に此処にいてもいいのですか。
すっと指を伸ばして、老子の頬に触れた。
乾ききっていない墨のぬるついた感触が指に伝わって、そのまますっと横に引けば、耳の横まで墨で汚れた。
まるで血痕のようだ。
「…ょう、申公豹?」
「え。」
声がして、はっと振り向くと、一通り笑い終えた黒点虎が不思議そうにこちらを見ていた。
「急に真面目な顔としてどうしたの?あーぁあ申公豹、手、汚れちゃってるじゃん。」
両手を開いて視線を落とす。
指先は当然のように真っ黒に濡れていた。
ああ、やっぱり――。
「……手、洗ってきます。」
「え?あ、うん。いってらっしゃい。」
流し台まで駆けた。
水を勢いよく流してそこに手を放り込む、墨は指紋の溝にはまって、なかなか綺麗にならなかった。
ああもういやだ。
苦しい。
くるしい。
ばしゃん、と水から抜いた片手で顔を覆った。
私にこんな明るい場所は似合わない。
あんな綺麗な人の傍は似合わない。
悪戯にかこつけて無意味な落書きをして、私と同じ罪で汚れればいいと思ってしまった自分が、情けない。
「っ……」
今度は両手で、顔を覆った。
出したままの水が、高い音を立てて流れ続けている。
無性に泣きたくなって、そのまましゃがみこんだ。
やっぱり、だめだ。
老子、老子、私ほんとに ここにいていいのですか。
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ギャグシリアス(なんだそりゃ)を目指して撃沈。
この話の流れ今度からやめよう、なんか、気分が、普通のシリアス書くより落ち込むort
黒点虎は申公豹の黥捏云々の過去をまだ知りません。けしてKYなわけではないです(笑)
昔の申公豹は老子に優しく接され過ぎて逆に追い詰められてるといい。
で、一回家から脱走したりすればいいと思う。
あと金目が禁忌っていうのは最○記外伝から引用してきましたが実際はどうなんでしょうか?
そんな事実はない、の…か?
でも萌なので活用。私が老子の瞳は金!にこだわるのはそこです(笑)
でも完全版カラーも綺麗ですきだ!
しかしこの申公豹浮き沈み激しすぎた。読んで、はぁ?ってなったらすいません;;
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