*微エロ
071 すべてを込めて
「っつー…い、です。」
真夏の休日。
無駄に馬鹿でかい家だから、光熱費が気になってエアコンも付ける気になれない。
もっと狭い部屋だったら…というと世の金欠学生に殴られそうだ。
そういう自分だって、別に金持ちなわけではない。ただ家がでかいだけだ。
半袖のシャツの袖をさらにまくりあげて、ボタンも2つまで開けている。
ジーンズは暑くてかなわないから7分丈のチノパン。
扇風機はリズム風。
それでもやはり、暑いものは暑い。まだ背中のあたりでシャツが汗で張り付いている。
まだ午前中だがシャワーを浴びようか真剣に考えているくらいだ。
…考えてはいるけれど、体を動かすのが億劫。
ソファに寄りかかっていた身体がずるずると床におちていく。
フローリングの床の冷たさに少し気分が良くなって小さく息を吐いて目を閉じた。
だが、カンカン照りの太陽を思い出して目の奥が痛くなった。
ピンポーン。
「…。」
インターフォンの音がした。
出なければと思うけれど、これで新聞や宗教の勧誘だったらと思うと立ち上がる気がなくなった。
ピンポーン。
「…誰ですか…もう。」
立ち上がるのはやはり面倒だが、取りあえず瞼は持ち上げた。
少し高めのいつもの白い天井が目に入った。
そうこうしているうちにインターフォンは鳴らなくなった。
しかしかわりにガチャリとカギが開く音がした。
「あ、」
忘れていた。
この家に無断で出入りできる人物が自分以外にいることを。
ようやっと身体を起こしたのと、その人物がリビングの扉を開けたのはほぼ同時だった。
「老子…」
夜勤明けかこの猛暑の中来たせいか、どこかやつれて見える老子があんぐりと口をあけてこちらを見ていた。
多分この家に人はいないと思って入ってきたのだから多少驚いてもしかたがない。
しかしその視線には驚き以外の感情が含められている気がした。
居留守を使ったことを怒っているのだろうか。
「申公豹、君…」
「しょうがないじゃないですか暑くて動く気になれなかったんです。別に居留守使いたくて使ったわけじゃ…」
「誘ってるの?」
「はいぃ?」
どさ、と老子の軽い(たぶん財布とケータイぐらいの中身)鞄の落ちる音。
何を血迷ったのか相手は馬乗りになってくる。
文字通り熱に…いやこの場合夏の暑さか…浮かされた目がじっとこっちを見ていた。
緩く束ねられた夏の草原のような色の髪が首筋をくすぐっていく。
ああそういえば見つめる瞳の色は、太陽のようだ。
「わけのわからないこと言ってないで退いてください、暑いっ…ちょっと!」
「部屋の中だからってこんなにボタン開けて、君の首筋から鎖骨にかけてのラインがどれだけ魅力的か分かってるの?」
「っ知りませんよそんなこと気持ち悪いですね!いいから早く退いてください!」
魅力的?
女性を3秒で落とせそうな容姿で、どこをどう見たら平々凡々な自分にそんな感想を抱けるのか甚だ疑問である。
ああもう本当に暑い。首筋を滑る舌先が熱した鉄のようだ。
眉間にしわを寄せて身体を捩ると、老子がいかにも気に入らないといった表情をしていた。
「…今、魅力的とか意味分からないとか、自分のこと普通だとか思ったでしょ。」
「そうですけど。それが何か?」
はぁあと大きなため息が聞こえる。
何でそんな態度とられないといけないのか。溜息付きたいのはこちらの方だ。重いし、暑いし。
「…君って、もう…ほんと…あーほんっと、君って!」
「な、…痛っ!」
ギっと、両腕をひとまとめにして頭の上に縫いとめられる。
片手でゆっくりとネクタイを寛げ始めた老子の目は、太陽というより獣になっていた。
背中に、暑さからではない汗が一筋こぼれる。
まばたきの音さえ聞こえそうな距離で老子がゆっくりと口を開いた。
「君っとほんと、そういうとこがいけない。」
「何が、っ…ふ…」
何がいけないのかと、問う言葉は薄く笑んだ唇に持っていかれてしまった。
身体をまさぐる手の温度はやはり熱い。
このままでは脳みそまでとろけてしまいそうだ。
「いかにも繊細そうな白い肌を晒して、」
「ん、んぅっ…」
「気だるげに目を伏せて、」
「や、ぁっ…も…」
「人のこと散々煽って、」
「放し…っひ…」
「そのくせ無自覚で、」
「ろう、し、老子っ…やだ、」
「自分なんてって顔して知らんぷりして、」
「あ、ぁっ…やぁっ!も、も…だ、め」
「本当に困った子だね。」
そう言って本当に困ったように笑う老子の顔が、涙の膜の向こう側に見えた。
彼が何を言っているのかよく分からない。
確かにこんな色の髪だし、変に目立ってよく見られるし、でも、ただそれだけだろう?
貴方が困る理由も、こんなに身体を熱くしている理由も、分からない。
そう、とぎれとぎれの言葉で彼に伝えるとやっぱり老子は困った顔をして
「じゃあ、分かるように身体にたたきこんであげる。私の全てを込めて。」
と、潰れるほど強く私の身体を抱きしめた。
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あまりにも暑いので。ギャグにしようとおもって失敗した!
11/6/28
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