きっと、望めばいつでも会いに行ける。
織姫と彦星みたいに1年に一度だけなんてことはない。
それでも触れ合ったこの皮膚と皮膚を離すことが、どうしてこんなにも名残惜しいのか。






  075 見つめて







「七夕…でしたね。」


ぽつりと呟いた声は夜の闇に反響した。
七夕に逢った僕らは、その事実を確認する前に寝台にもつれ込んでしまって、気付けばその日付はとうに過ぎてしまっていた。
今思えばロマンチックさのかけらもない。


「…すいません、がっつきました。」
「…。…別にいですけどね。どうせ、曇り空です。」


横になったまま、寝台の上から窓の外を眺めながら申公豹は言った。
確かに外は曇り空で、天の川は見えない。
目を細めて星を探している横顔はとても綺麗に見えた。
ぼんやりとした月の光でも彼の白金の髪はきらきらと光っている。


「ところで楊ゼン。」


申公豹が身体を反転させてこちらを向いた。さっきまで空を見ていた大きな目が、僕を見ている。
何度も見ているのにその大きな目の存在感に、はいと返事をした僕の声は少しうわずっていた。


「腕、抜いていいんですよ?」
「え?」
「だから…腕。しびれてるでしょう、何時間もこの状態で。」


これですよ、と申公豹は僕の伸びたままの腕を突いて言った。
いわゆる腕枕をしている僕の腕は、彼の言うとおり少しずつ痺れて感覚を無くしつつあった。
それでも彼の髪の柔らかさだとか、体温だとか、たくさんのものを僕に伝えている。


「いんですよ、このままで。」
「しんどいでしょう?」
「確かに楽じゃないですけど…いいんですこれで。」


そう言って僕が笑うと、申公豹は怪訝な顔をした。納得がいかないときの顔だ。


「触れ合ってたいんです。」
「はい?」
「触れ合ってたいんです、あなたと。痺れたってかまわないんです。名残惜しいんです、離れるのが。」


変化球は不必要。直球ストレートでそのままの気持ちを伝えた。
すると彼はきょとんとして、変な人ですねぇとまんざらでもない笑みを浮かべた。
それから僕の目をじっと見つめてこんな事を言う。


「…それなら、これでいいんじゃありませんか?」


白い、華奢な両手で腕枕をしている僕の腕をとり、ゆっくりと絡めるように彼は僕の手を握った。
緩いしびれが残る腕が少しずつ元の感覚を取り戻しはじめていく。


「ね?」


僕の手を包み込んで微笑う彼の瞳の中に、今は見えない星々が見えるような気がした。





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大分遅いけど七夕ネタ。
今年の七夕は曇り空でしたね。


11/7/20


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