「あ、の…?」


  だってあなたとこんなにも長い間離れていたんだから、身体が言うことをきかないのは仕方ないと思うんだ。
  その「長い間」が、仙道にとってみたら時計の長針が一つ動くか動かないか程度であったとしても。






   077 愛したいだけ







  「楊ゼン、どうか、しましたか…?」
  「いいえ、申公豹。僕は至って普通です。」


  捕まえた両肩をそのままに、雪のように白い頬に唇を寄せた。
  未だ困惑したままの申公豹が、くすぐったそうに身を捩った。
  軽く音を立ててキスをすれば、白い頬がふっと朱に染まる。
  唇を首筋まで滑らせようとしたら、申公豹の手が僕の腕を掴んで抗議した。


  「楊ゼン、ちょっと…待ってくださ…」


  腕を掴む手の力が強くなる。
  布の擦れる音が聞こえたけれど、綺麗に整えられた彼の爪は僕に痛みを残さなかった。
  

  「待つ…?僕はたくさん待ちましたよ、申公豹。」
  「ん、…っ」


  たくさん待った。
  孤児院の無力な子どものように。あと3回寝ればあなたが来てくれる。あと7回寝たら来てくれる。あと10回寝たらきっと。
  そんな風にね。


  「ぁ…ぁ、っ…」
  「ここ、弱いですよね。」


  剥き出しの首筋に、咬みつく。
  いつもそこに巻かれている邪魔な飾りは今はなかった。
  血管が透けるほど白い首筋を吸い上げるたびに、申公豹は鼻にかかった甘ったるい声を上げる。
  綺麗に散った赤色に僕は満足げに微笑んだ。
  もう潤み始めた彼の目尻にキスして、服の上から胸にそっと手を滑らせる。
  主張し始めた胸の尖りに指をやれば、申公豹の身体は僕から逃げようと震えた。
  

  「だめですよ、逃げないで。」


  腰を掴んで離れないように引き寄せる。
  彼はまだ逃げようと抵抗したが、胸の先端が硬くなるのに反比例して、それはどんどん弱々しいものに変わってしまった。


  「は、…ぅ、う…」
  

  群青の目はすっかり潤んでしまった。
  水を張ったそれは、人形のグラスアイのように不思議で、綺麗で、魅せられる。
  力が入らなくなって、崩れかけた身体を支える。
  逢わない間に、また軽くなったのではないかと思った。
  手を下に下にと滑らせると、止んでいた抵抗がまた始まった。
  そんなことしたって無駄だってわかってるくせにやるのだから、それがまたかわいくてたまらない。


  「い、やです…」
  「嫌なんですか?」
  
  腹の辺りで、手を止める。
  服の裾から手を差し入れて肌に触れれば、白い腹が面白いほど跳ねた。
  そのまま下に手を撫でおろして、熱をもった場所には触れないでまた手を止めた。
  小さく笑んで申公豹を見る。
  上目使いの甘い目が、不安そうにこちらを見ていた。
  最強の冠をもっている彼が「不安そう」というのは変な話だが、確かに彼はそんな目で僕を見る。
  最も彼が恐れているのは僕では無くて、快楽に呑まれそうな彼自身の方だろう。


  「ぅ…嫌…いやです、も…やめ…っ…」
  「嫌なのに、こんなにしちゃってるんですか?」
  「――っぅあ…!」


  直に触れたそこは確かな熱を持っていた。
  あふれ出た先走りをなすり付けるように愛撫していると、申公豹の脚が震えだす。
  立っているのが辛そうだったので、ゆっくりと彼の身体を床に横たえた。
  床は先日替えたばかりの毛の長い、赫い絨毯が引いてある。
  その赫に、彼の白い肌と白金の髪が広がって、群青の目が僕を見る。



  「きれい。」



  一枚の絵のように、額に入れて飾れたらどんなにいいだろう。
  どんな言葉で言い表したらいいのか良く分からないけれど、口から出た言葉はきれいの一言だった。
  その言葉に彼の整った顔がむすりと崩れるのがまた可笑しくて、かわいくて。


  「きれいです。」
  「目が、…っん…腐ってるんじゃ、ないで…すかっ…」
  「もっと自覚したほうがいいですよ、あなたは。」
  「何を…」


  心底不思議そうに聞いてくるから質が悪い。
  こんなに僕があなたに酔って、狂っているのに、そんなことも気付かないなんて。
  もっと自覚してくださいよ。あなたはこんなにも魅力的なのに。


  「やっ…あ、ァ…!」


  慣らすだけ慣らした後に貫けば、もう淡い桜色に染まった身体は大きく跳ねて、生暖かい感触が広がった。
  いつもより数段早い吐精に、申公豹は今にも消えてしまいたいとさえ思っていそうな顔をしていた。
  かわいい、と呟くと案の定ギンッと睨まれた。
  顔を真っ赤にして、潤みきった眼で睨まれても、更にかわいいだけで、僕の少なくなっていた理性はどこかに行ってしまった。
  申公豹の息の整うのも待たずに、細い脚を抱え上げて奥まで押し入った。


  「や…ぁあっ…だめ、で…待…っまだぁ…!」


  泣きそうな顔でそう言われても、もっと虐めたくなるだけだった。
  射精後の身体は突き上げられる刺激にかわいそうなくらい震えている。
  半音上がった申公豹の声が、僕の鼓膜を震わせる。
  二回目の吐精を迎える直前に、とっさに僕に伸ばされた手を躍起になって掴んで、僕らは果てた。


  か細い呼吸を繰り返し、小刻みに震える申公豹の上気した頬が目に映る。
  涙の伝ったその頬に、僕はこの身体が持てる限りの愛を贈った。









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 なんで私が書くと、こうも楊ゼンが気持ち悪いんでしょうね。
 別に気持ち悪く書こうとしているわけではないんです…書いたらそうなるんです…(余計悪い)
 白い絨毯には血液を。赫い絨毯には精液を。…な状況が好きです。


  09/7/4


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