「踊りませんか?申公豹。」
「…はい?」
そう言って彼は私の手を取り引いた。
地上1000メートルの世界で。
083 この気持ちを抱かせてほしい
「っ申公豹!」
黒点虎の切羽つまった声と哮天犬の鳴き声が夕暮れの空に響いた。
それも仕方のないことだ。たった今まで和やかに談笑していた二人のうちの一人が、もう一人の手を引いて空に身を投げたのだから。
私の両手にしっかり指をからませた彼の表情は、まるで何事もないかのように穏やかだった。口元には笑みさえ浮かんでいる。
私が下で、彼が上で。だから私の目には彼とその上の夕暮れの空が映るばかりだ。
落下スピードはどれくらいだ?まるでスローモーションのようにゆっくりに感じる。
「…これって踊るうちに入るんですか?」
「もっと他に言うことあるでしょう、申公豹!僕に落とされたんですよ、あなたは。」
あはは、と彼は可笑しそうに笑った。
焦っているのは霊獣たちだけで、当事者である私たちは至って普通だった。
――だって、もう落下してしまっているのだから、今更焦ったってどうしようもないではないか。
「空は綺麗ですか?」
「ええ、それなりに。真っ赤で。」
「夕焼け空かぁ。いいですね、終末感漂ってて。」
風を切る音がうるさくてかなわない。
声を張り上げないとお互いの声は聞こえなかった。殆ど唇の動きを読んでいるようなものだ。
彼の青い髪が夕暮れ空にばさばさと揺らめいて、私の視界は青だったり赤だったり目まぐるしい。
上を向いているせいで地面が迫って来ないから分からないけれど、あの高さからだとおそらく30秒ほどで地面にたたきつけられるだろう。
今まで何秒たったのか?そんなの覚えていやしない。
「世界の終わりには、やっぱりあなたと一緒にいたいです、僕。」
「なんですかそれ。」
「世界の終末は結構大事なことですよ?だって僕たちは自然死しないんですから。」
不老不死とはそういうことだ、と彼は言った。
世界の終末なんかまるで信じていないような顔をして、にこやかに語る彼は本当に「読めない」と思った。
ああ、地面が近い気配がする。
目まぐるしく変わる視界にうんざりして、私はゆっくりと目を閉じた。
「――っ…!」
想像していた衝撃は来なかった。
背中に黒点虎の柔らかい毛並みを感じて、私は上からどすりと覆いかぶさるように落ちてきた彼の身体をなんとか受け止めた。
重なったお互いの心拍は早く、思いのほか心身に負担がかかっていたことを知った。
約30秒の私たちのダンスは、他の人の目にどう映ったのだろうか。
「ッおまえなんか嫌いだ!!」
取りあえず地面に降り立った私の無事な姿を見てへにゃと顔を歪めた黒点虎は、大声で叫んで楊ゼンに体当たりした。
どんと鈍い音がして、彼は地面に尻もちをついた。
わぁ、と私に抱きついて泣き出してしまった霊獣の額をゆっくりと撫でる。
「楊ゼン、私にはいいですけど、黒点虎にはきちんと謝りなさい。」
「そうですね…。」
わんわんと泣き続ける黒点虎に流石に申し訳ない気持ちになったのか、楊ゼンは苦笑して謝罪の言葉を述べた。
当然のように黒点虎は彼を許さなかった。
すぐにでも私を背にのせて駆けようとする黒点虎を少しだけ制止して、私は彼と向き合った。
「…どうして、避けなかったんですか?申公豹。」
「なにがです?」
「落ちるとき。避けられたでしょう?」
「さぁ?どうしてでしょう。しいて言うならば、」
西日が眩しいのか、彼は顔をしかめていた。今ならば私の顔は見えないだろうと思って、思い切り意地の悪い顔で私はこう言ってやった。
「私の終末のプランも、あなたと同じかもしれないから…ですかね。」
え、と驚いた彼の短い声を聞いた。
私は聞こえないふりをして、夕暮れの空を黒点虎と駆けて行った。
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なんかポップな話書こうとして失敗した例。
楊ゼンが電波ですいませんww
地上1000メートルから落ちて30秒うんぬんは適当なので信じないでNE☆
ホップ・ステップで踊ろうか 世界の隅っこでワン・ツー
ちょっとクラッとしそうになる 終末感を楽しんで
BGMにしてたのは、気付く人は気付いているはず。wow.ak.aさんのワール.ズエ.ンド・ダン.スホ.ー.ル。
11/11/05
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