こんな事をしていたと知ったら、君はものすごく怒るどころか師弟の仲を解消しろと言いだすかもしれない。
  だから絶対に言わないけれど、時々思い出す位は許してほしい。






   084 許してほしい






  君の庵は本当にへんぴな所にあって、周りといえば緑ばかり。
  そういう場所を好んで住んでいるのだから本当に君は物欲がないというか何というか。
  辺に大人びているというか何も関心がないのか。
  そんな風な所を感心したり呆れたりしながら私は仙界から君のことを覗いていた。


  あれは「覗き」始めてから一体どれくらい日が過ぎてからだろうか。
  ふらっと君の庵を覗くと、君は寝台の上で時折もぞもぞと動きながら小さく息を吐いていた。
  私は君が何をしているか理解は出来たけれど、あまりにも君とその行為が結びつかなくて変な気持ちになったのを良く覚えている。
  端的に言えば自慰なのだが、君のそれはひどく義務的だった。
  快楽を追い求めるというよりは、何かしらの理由を付けて処理しなければいけないから仕方なくしている、といった方が正確なような気がした。
  その空間にはむせかえる様な性の匂いも、張りつめた熱さも何もなかった。
  それなのに君の時折詰める声や吐き出す息だけが酷く甘やかで、


  『…ふ、ぁ…っ…、ぅ…』


  耐えきれずに漏れ出した声は驚くほどに扇情的だった。
  掛け布に埋もれた君の顔はやっぱり気持ちいいというよりかは苦しそうで、早く終わらせたいとでも言っているようだった。
  ぎゅっと目が閉じられた顔は切なげで、今その身体を抱きしめたら君はどんな顔をしてどんな目で私を見るのだろうと考えた。
  …見てはいけないのだと、早く覗くのを止めなければいけないのだと頭のどこかで警鐘が鳴っていた。
  けれど私は一秒も、そう一秒たりとも彼から目を逸らすことはなかった。
  彼の一挙手一投足、私は目に焼きつけた。


  『ん、ん…っ――…ッ』


  いつから始められたのか定かでないが、彼が身体を大きく一度震わせるとその行為はあっけなく終わった。
  汚れてしまった紙布を屑箱に入れ、君は手を洗いにふらふらと寝台から脚をおろした。
  立ち上がると、着物のようなものの裾から覗く少年の独特の柔らかさと華奢さをもつその脚から、つぅっと一筋白い体液が流れた。
  それを見た瞬間に私はどうしようもない気持ちになって、慌てて覗くのを止めた。
  後悔と罪悪感のようなものがない交ぜになって私の心を支配していた。
  こんな気持ちは何というのだったか。
  君のことで頭が一杯で、気になって仕方なくて、でも触れられなくて、この距離を壊したくなくて、でも壊したくて。

 
  こんな気持ちは。











  
  恋という。



  11/01/24


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