*R15くらい









   耳たぶに押し付けて



  「ぅ、ん…」


  耳元でぬるりとした感触と湿った音がした。
  気持ち悪くて、首をすくめて横を向くが、感触は消えない。
  せっかく気持ちよく寝ているのに、一体なんだっていうのだろう。
  耳元の感触をどこか別の世界の出来事のように感じていたが、だんだんと寝ぼけた頭が覚醒してきて私はハッと目を開けた。


  「な、」
  「おはようございます、申公豹。」


  仙女が2、3人…いやもっとかもしてない…ころっと逝ってしまいそうな笑顔を浮かべて、楊ゼンが朝の挨拶を私に送った。
  ベットの脇にでも立って言われるのならまだいいが、彼は今私の上に馬乗りになっているのだから心穏やかではいられない。


  「…なにを、しているのですか。」


  あんまりな状況に挨拶を返すこともできず、私は彼の青い目を不機嫌に見つめ、問うた。
  2、3度ぱたぱたと瞬きをした楊ゼンは、悪びれる様子もなく

  「あんまり寝顔がかわいいものですから、夜這い…いや、夜ではないですけど…をしてます。」

  と、照れたような笑みを浮かべて言った。
  …夜這いも何も、昨日はきっちり夜襲を掛けられて今でも下半身が鉛のように重いのだ。
  それを朝から、こともあろうに眠っている間にさらに襲いかかるなんて、一体どんな性欲をしているんだこの若造は。


  「しなくて結構です、よ…っ、退いてください。」

 
  ぐ、と楊ゼンの体を退かそうと両肩を押すが、びくともしない。
  しかたなく言葉で命令じみたお願いをしてみたが、楊ゼンはにっこり笑って私の手首を掴んできた。
  そのまままとめて枕の上に縫いつけられる。
  抵抗を試みたが、どう考えても体力で勝てるわけがなかった。


  「っ何考えてるんですか…こんな朝っぱらから。」
  「そうですね…貴方の事を。」


  歯の浮くような台詞を吐いて、また耳元に楊ゼンの唇が当たる。
  耳にふっと息を吹き込まれて、身体が跳ねた。
  反射で瞑ってしまった目を開くと、楽しそうな表情の楊ゼンが目に入ってくる。


  「申公豹って、耳、弱いですよね。」


  違うと否定しようと口を開きかけた瞬間に、また息を吹きかけられる。
  なんとか声は出さずに済んだが、正直これを続けられるとまずい。
  ……別に、弱いわけではない。苦手なだけだ。


  「声、抑えなくていいですよ?だって、さっきまで――」
  「え…?」


  さっきまで、という言葉に引っ掛かりを覚えて、私は疑問符を浮かべた。
  困惑している私を見て、楊ゼンは壊れものでも扱うかのように私の頬を撫でた。
  ゆるゆると指先を這わせながら、耳元でそっと囁かれる。


  「さっきまで…さっき起きるまで…すごく可愛い声、あげてらっしゃましたから。」
  「なっ…!」


  かっと顔が熱くなって、私は理解した。
  さっき寝ている間、無意識のうちに、耳を舐められて声を漏らしていたのだろう。
  失態に、顔を歪めた。


  「そんな顔しないで下さいよ、申公豹。」
  「っ、んぅ…っ」


  本格的に、耳に舌が入り込んでくる。
  濡れた音と感触に、気持ちいいのか気持ち悪いのかも分からず、ただ身体をびくつかせた。
  長く蒼い髪が首筋に触れてくすぐったい。夜着を着ていたのがせめてもの救いだった。


  「ぅ、く…」


  耳を蹂躙する舌から逃れたくて必死に身体を捩る。
  少し身体が離れれば、また向こうが距離を縮めてきて結局追いつかれる。
  くすぐったくて首や肩がつってしまいそうだ。


  「やめ、て…くださ…っ」
  「どうしてですか?気持ちいいのでしょう?」
  「ぅ…、やっ…」


  頬を撫でていた楊ゼンの手が下に滑り降りていく。
  首を撫で、鎖骨の形を確かめ、胸の尖りまで行きついて、止まった。


  「だって…ほら、固くなってる。」
  「――っぁ、あ…ッ」


  きゅっと摘まれて、吃驚するほど甘ったるい声が出た。
  とっさに歯を食いしばるが、芯を持ったそこを服の上から指の腹で撫でられ押しつぶされる感覚に、唇の隙間から声がもれてしまう。
  目は涙が膜を張っていて、楊ゼンの表情が上手く見えない。
  手はまだ拘束されたままだし、耳は楊ゼンに支配されたままだ。
  いかにも好青年といった、柔らかいテノールの声がワントーン下がる。
  ぞくぞくするというよりかは、身体に染み入る様な澄んだ低音で「かわいい、」と彼が呟いた。
  何を馬鹿な事を、と言ってやりたかったが、口を開けば一緒にとんでもない声が出てしまいそうなので止めた。


  眠っている時から愛撫されていたせいだろうか、耳と胸だけで、下腹部の熱は大きく膨らんでしまっていた。
  楊ゼンもそれに気づいたのか、どこか意地悪そうな笑みを浮かべたかと思うと、膝頭でそこを押し上げた。


  「っふ、ぁァ…」
  「こっちも、固くなってます、ね。」
  「や、め……!ひっ…やぁ…ァ…」


  何回も、膝で擦りあげられる。
  服の擦れる感覚がもどかしくて、でもたまらなく気持ちよくて、頭がくらくらしそうだった。


  「よぉ…ぜっ…、も…やめ、ぁ、ア」
  「なんだか…手で触らなくてもイっちゃいそうですね…申公豹。」


  否定なんて出来なかった。 
  先走りが溢れているのが分かる。下着はもう濡れてしまっているだろう。
  それでもこのままイくのは悔しくて、下腹部に力を入れて達してしまうのを押しとどめる。
  快楽を塞き止めるのは苦痛で、でもこんな、膝だけでイかされるのは恥ずかしくてしょうがなかった。


  「あれ…我慢、してるんですか…?」
  「ぅ…ぁ、くっ…」


  そうだと答える事も、首を縦に振ることも出来なかった。
  一瞬でも気を抜けば、熱を吐き出してしまいそうだった。
  何も答えない私に、楊ゼンはふむ…と考えこむような動作をして、それから思い立ったように下着の中に手を入れてきた。






  「なっ…ぁ、ぁ――…ッ」

  
  勃ちあがった性器を強く扱かれ、あまりの快楽に射精した瞬間、根元をぎゅっと握られた。
  出したのに、出せてない。
  吐き出せた精液はほんの少量で、まだ半分以上ある逃げ場のない快楽が身体の中を駆けまわっていた。


  「――っ…!!」
  「我慢すると、気持ちいいですよね」

  まるで何でもないことのように、楊ゼンが微笑みかけてくる。
  全くイかせてもらえないことより苦しく、イってしまうことよりも大きな快楽に、頭が煮えそうになる。
  口の中がからからに乾いていた。


  「あっ、あ、おねが…放し…!」
  「はい。」


  先端をぐちゅりと刺激されて、手が緩められたかと思ったら、またぎゅっと握られる。
  また少し溢れた精液は勢いを失ってとろとろと流れた。

 
  「ぁ、ああァ…っ!…ち、が……さ、いごまでっ…イかせ…ふ、ぁあっ…」

  
  言葉を紡ぐ間にも、白濁を吐き出させては塞き止められる。
  半分以上泣き声で縋るように名を呼ぶと、青い目が幸せそうに歪んだ。
  まるで半妖体になった時の様な、深く、鋭く、どこか恍惚とした目だった。

  



  「申公豹、申公豹…すきです。」






  甘く、熱を孕んで上擦った声が耳元に注ぎこまれるのと同時に、私は意識を手放した。














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   楊ゼンは狂気じみたものを抱えてるといいと思うんだ(キリッ
   っていうのをですね、はい…えーと…すいませんorz
   なにがすいませんってお題から脱線しまくってるあたりです…(笑)
   もっと楊ゼンを病ませてもよかったかもしれない。





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