なに?ボクの主人はどんな人かって?
             強くって、優しくって、綺麗で…って、あーもう、変なこと聞かないでよ。言うとキリが無いんだから。



              013 絶対服従



             「もー…だから言わんこっちゃない。」
             「仕方ないじゃないですか…あんまり月が綺麗だったんですから…っくしゅん!」
             「はいはい分かったから。今日は外行っちゃダメだよ、申公豹。」
             「…っくしゅ…」


             返事の代わりにくしゃみをした申公豹の体温は、高くはないが平熱を超えている。
             昨日僕が止めたのに、薄着で月見なんかした所為だ。
             確かに昨日の月は大きくて眩しくて、とっても綺麗だったけれど、それで風邪引いてちゃ意味がない。
             

             「ねぇ、薬はどこにあるの?」
             「こんな風邪…寝てたら治ります。」
             「でも風邪は万病の元って言うよ?」
             「大丈夫ですよ、熱もそんなにないですし。」
             「でもっ…」
             「大丈夫、です。」


             申公豹は結構頑固だ。
             こうなると絶対ボクの言うことなんか聞いてくれない。
             だからボクはこれ以上口を開くことをあきらめる。…そうそう昨日もこんな調子で、申公豹に押し切られちゃったんだよね。
             

             「黒点虎、黒点虎。」
             「んー、なに?」
             「こっち来て下さい。」


             ぱふぱふと、寝台に寝転がった申公豹が布団を叩く。
             どうやら「こっち」とは寝台の上のことらしい。
             

             …ねぇちょっと待ってよ、重量オーバーでベッド潰れたらどうすんの?


             「あのさ、申公豹…」
             「早く、早く。」
             「いや、だからベッド潰れちゃ…」



             「…嫌なんですか…?」



             〜〜っだぁ!もう!なんでそんな悲しそうに言うかなぁ!?
             申公豹の何が怖いって、こういう事を確信的にやってるんじゃなくて、100パーセント天然でするあたりだ。
             そんな風に言われたら、断れるものも断れないよ。


             「い、嫌じゃないけどさぁ…」
             「なら、早く。ほら、おいで。」


             にっこりと笑顔で言う申公豹に逆らえるはずもなく、ボクはベッドの上に体を乗せる。
             できるだけそぉっと。
             だってそうじゃないと本当にベッド潰れちゃいそうだし。
             ほら、ギシギシいってる。


             やっとの思いで体を横たえると、隣で寝ていた申公豹がボクの体にぎゅーっとしがみついた。


             「ふふ、気持ちいです。」


             居心地のいい場所を探すために、そのまま数秒もぞもぞと動かれる。
             それがくすぐったいのなんのって。
             けれど申公豹があんまり幸せそうな顔してるから、邪魔なんか出来やしないんだ。


             ピタリと動きが止まった。
             どうやらいい場所に頭が納まったらしい。


             「…このまま寝るの?」
             「寝ます…だって外に…出れないですし…」
             「そうそう、悪化したら大変だもん。」


             クスクスと申公豹の笑う声がする。
             息がかかってちょっとくすぐったい。
             体をよじらないように注意しないと。だってボクが動いたら、せっかく申公豹が見付けた定位置を壊しちゃうし。


             「…黒点虎。」
             「んー?」



             「おまえは本当に、やさしいですね。」



             微笑みながら言ったような声がボクの耳に届く。
             嬉しくってもう一度聞きたくて、申公豹を見てみると、もう大きな瞳は閉じられてしまっていて、
             規則正しい寝息が聞こえ始めていた。
             最強と呼ばれるボクの主人の寝顔は、正直誰にも見せたくないくらいかわいい。




             …ねぇ、申公豹。
             なんか誤解してない?
             ボクは誰にでも優しいんじゃないよ。
             申公豹にだけ優しいんだからね。
             申公豹の言うことだから聞くんだからね。
             だってボクの主人は、申公豹しかいないんだから。



             ボクの想い、ちゃんと届いてる…?






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             申公豹に、おいで、って言わせたかっただけ…(笑)
             黒点虎視点っていうのも新鮮でした。




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