あなたが求めている。あなたを求めている。


 
   ある起床時の風景



  コンコン、と部屋の扉が鳴った。
  この家にいるのは二人と一匹で、黒点虎は散歩に行ってしまっている。ということは、扉を叩くのは一人しかいない。


  「申公豹ー…。」
  「…おはようございます、老子。」


  かれこれ何年寝てたのかは面倒なので数えていないが、とにかく今目を覚ましたらしい自分の師は、欠伸と一緒に、おはよう、を吐きだすように言った。
  起きぬけの間抜け面のはずなのに、そのあとに微笑むだけで息を呑む程綺麗なのだから質が悪い。


  「あれ…黒点虎は?」
  「散歩ですよ。黒点虎は活動的ですから、貴方と違って。」
  「最後が余計だよ…。ふぅん、でも…そっか、お出かけ中か。」


  ずる、と長い裾を引きずる音がして、老子が私に前のめりに凭れてきた。そのまま背に腕が回されて抱き籠められる。
  そのこと自体は嫌いではないのだが、このタイミングでは素直に受け入れらるはずもない。だって嫌な予感しかしないではないか。


  「老子、重いです、放してください。」
  「ねぇ、申公豹。」


  ああもう本当に嫌な予感しかしない。凭れていた身体を起こして、頭一つ上から見下ろしてくる顔は、実に楽しそうなのだ。
  この時ばかりは散歩に行った黒点虎を呪った。


  「嫌です。」
  「まだ何も言ってないじゃない。」
  「大体想像がつくから言ってるんですよ。」
  「ねぇ、ちょっとだけ。」
  「ダメです。せっかく起きたのに他に何かすることないんですか貴方は、って…ぅわっ…!」


  にこにこと笑顔を崩さないまま、老子は私の身体をひょいと持ち上げてしまっていた。状況を打開しようと、些か乱暴かと思いつつも私は宝貝に手を伸ばした。
  が、所定の位置にそれがない。
  驚いて周りを見ると、探し物は老子の手の中にすっぽり納まっていた。
  いつのまに。
  分かってはいたことだが、(ムカつくことに)拒否反応がほとんど出ていないことに感嘆した。
  たまにこんな事がないと私は老子が三大仙人だということを忘れそうになる。
  …いやいや呑気にそんな事を考えている場合ではない。この状況は非常にまずい。


  「老、」
  「危ないなぁ、結構痛いんだよ、これ?」


  雷公鞭を左右に揺らして老子が言う。
  悪いコだなぁ、と声が聞こえて、私は自室の寝台に投げ出された。
  馬乗りになった老子の、浅葱色のやわらかい髪が頬を滑る。
  くすぐったくて顔を背けると、露わになった耳に唇が降ってきて肌が震えた。
  

  「っ、…」
  「大丈夫だよ。」


  優しい声色が、耳を突き抜ける。そうやって老子は私を支配してしまうのだ。
  形のいい唇が、耳朶の感触を楽しむように押しつけられて、くすくすという笑い声と共に、また声が注ぎ込まれた。
 

  「大丈夫。ちょっとだけだよ、…最後までしないから。」








  ***









  「ぅ…やぁ、あっ…」


  甲高い声を上げて、幾度目かの精を吐きだした。
  こんな声はきらいだ。
  きらいなのに、手で口を隠そうとすると細い指先がそれを制止してしまうから、結局いつも聞くはめになってしまう。


  「っ、ふっ…」
  「いっぱい出たね。申公豹ってさ、一人でしないの?」
  「っ、ぁなた…みたいにっ…性欲旺盛じゃ…りません…、っ…」


  息の上がったままそう言うと、きょと、と一瞬止まった老子が小さく笑った。
  旺盛なわけじゃないよ、なんて返される。…どうだか。
  白く汚れた指を舐めて、老子は目を細めた。


  「まぁ確かに申公豹って、そういうの淡白っぽいよね。私、最初キミのこと、不感症だと思ってたよ。」
  「ゃ、はぅ…っ…」
  「…こうやって触れるまではね。」


  濡れたままの指が胸の先端に触れる。
  射精後の敏感な身体は、嫌でもその刺激に反応してしまう。


  「でも、触ってみたらこんなに感度がいいんだもの。」


  意地の悪い笑顔が、こちらに向けられて、唇がふさがれた。
  熱い舌がねっとりと忍び込んできて、口内を荒らしていく。
  息が苦しい。
  胸の刺激が、もどかしい。
  一度も触れられていない後ろが疼いて、そんな身体を嫌悪した。
  

  「ん…」


  透明な、糸を引いて唇が離れる。
  老子の湿った唇はさっきよりずっと赤く色付いていて、数年前に見た椿を思い出した。
  自分でも分かるほど潤んだ目で、その唇を見つめていた。
  いや、見つめていたというよりは、そこから目線をずらすのも億劫なほど、倦怠感が自分を襲っていた。
  老子の唇が動く。
  小さく、微笑んで、私の瞼に、降りてくる。


  「そんなかわいい顔しないで。」
  「してません…」
  「いじめたくなるでしょう?」
  「何言っ…、ぁっ…や、も…やぁ…っ」


  長い指がまた下肢に絡められる。
  老子は自分の着衣をほとんど乱さないまま、私のそこばかり触れてくる。
  ああ。老子は最初なんて言った?


  「っ…う、そ…つき…」
  「ん?」
  「ひぁっ…ぁ、ちょ…っとって…言ったじゃないです、かぁ…っ」
  「あぁ…確かに。半分は嘘だね。…でも私はこうも言ったよ、『最後までしないから』。」
 

  こっちは、ホントだよ。
  なんて、そんな肯定嬉しくない。
  ちょっとだけ、が嘘で、最後までしない、が本当なら、ずっとこのままだということなのだろうか。
  イけはするけど、ずっと満たされなくて、苦しいまま?
  そんなの。
  そんなのは。


  「…っ…ぃ、いやです…ろぉし…っ」


  こんなに、疼いているのに。


  「この、まま…このまま、は…嫌です…っ」


  ぎゅぅ、と背中にしがみ付いてそう言えば、ぴくりと老子の身体が跳ねて、小さく微笑む音がした。
  じゃあ最後までしてもいいの?なんて聞いてくるところが憎たらしい。
  憎たらしいし悔しいけれど、体が疼き続けるのがどうしても耐えられなくて、こくこくと首を縦に振った。
  すると途端に片足を抱え上げられて、息を呑んだ。


  「――――っっ!?」


  あまりの衝撃に頭が真っ白になりそうだ。
  慣らしもしていないそこは狭くて窮屈で。
  よくもまあ、最後まで挿入ったものだと、自分の身体を褒めてやりたくなった。
  脳天まで痛みが突き抜ける。
  これでは老子もキツイだろうに。自業自得だが。


  「ふ、ぅっ……ッ……」
  「ごめん…我慢しすぎた、みたい。」


  あはは、と老子が苦笑った。
  確かに、老子は我慢しすぎたらしい。
  こんなになっているなら、あんなに私ばかりイかせてないでさっさと事を進めれば良かったのに、と思うほど穿たれたそれは熱く濡れていた。
  痛いのと、苦しいのと、どこか満たされた感覚に頭の芯がぼぅっとする。
  

  「ぁ…ぁ…っ…」
  「息…ちゃんとできてる…?」


  心配そうに、老子が私の顔を覗き込む。
  こくんと一度頷くと、よかった、と安堵の表情を見せる。その熱を孕んだ金色の目が、私の眼にはいつもより一層綺麗に映った。
  

  「っ…あぁ…」


  ナカがゆっくり動きだすと、それだけで体が震えた。
  どこが私の良い所かなんていうのは、老子はとっくに知っていて、そこを突き上げられるともうどうしようもない。
  意味をなさない言葉の欠片が口から次々こぼれていく。
  目は完全に潤んでいるし、身体は自分のものではないかのように勝手に快楽を叫ぶ。
  それが恐ろしくなって、すがりつく様に手を伸ばせば、広い滑らかな背中がその手を迎えてくれた。
  二人とも元々限界が近かったせいもあって、程なくして同時に果てた。








  ***








  「で。結局、ちょっとだけ、でも最後までしない、でも無かったわけですが?」


  そして慣らさないで突っ込むとか私を殺す気ですか、と嫌みたっぷりに睨みつければ、
  流石にまずいと思ったのか老子はゆっくりと両手を上げた。落ち着け、とでもいったところか。


  「う、うん…どっちでもなかったデスネ。」


  あはは、と引きつった笑いを浮かべる老子を前に、私も満面の笑みで返した。
  そしてこう呟く。

  
  「…結構、痛いんですってね?」


  ゆらゆらと、私は手の中の雷公鞭を左右に揺らした。
  老子の顔が一瞬で固まって、そして後ろに一歩さがる。
  まぁ仮に当たったとして、死ぬことはないでしょう。
  だって老子は私の師匠ですからね。
  …別に褒めてるわけじゃ、ないですよ?















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  えろいのが書きたかっただけです、が思ったよりえろくなりませんね…
  もっとぬたぬたのが読みたいんですが…(笑)
  
  ここまで読んでくださってありがとうございました!



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