色
「申公豹さぁ…もうちょっと部屋に色味を持たせたら?」
家にふらりとやってきた老子がそう言った。
大学入学と同時に移り住んだこの新居の近くにあるドラッグストアの薬剤師で、
毎回事あるごとに私に絡んでくるのをそのままにしていたら恋人同士になったのは少し前の話。
「いいじゃないですか。落ち着くんですよ、モノトーンが。」
ろくに顔も見ないでそう答えると、納得がいかないのか不満そうな声が返ってくる。
「だってなんかお葬式みたいじゃない。」
「お葬式…。」
まさか葬式だなんて。
随分な言われようだ。
確かにこの部屋は白と黒ばかりで、そう言われても仕方ないのかもしれないが。
色。
色、色。
どこかにないだろうか。
振り返って訪ねてきた老子をみて、「ああ」と思った。
「それなら貴方が来ればいい。」
「へ?」
疑問符を飛ばした仕事帰りの白衣の薬剤師。
その顔を見て微笑んで言う。
「貴方が私の部屋に色を添えればいい。」
その浅葱の髪で。
その金色の瞳で。
この殺風景な部屋を彩ってしまえばいい。
「…なにそれ、誘ってんの?そんなこと言われたら、毎日来ちゃうよ。っていうか住んじゃうよ。」
「前言撤回します。」
「うわっ、ひど!」
ふふっ、と彼特有の笑い声が響く。
つられて笑っていると、すぐ目の前に彼が居て驚いた。
「…なんです?」
「でもさぁ、やっぱり君が彩りを添えなきゃダメじゃない?」
「何を…」
言っているのだ、と言いおわる前に唇が触れ合った。
それはすぐに離れたけれど、唇の温かさはまだ残っていて、顔がかぁ、と熱を持ったのが分かった。
「ピンク。」
ふ、と余裕のある笑みと共に声が降って来た。
それが自分の頬の色のことを指されているのだと知る。
「君の色、この部屋に添えてみたんだけど。」
「…馬鹿じゃないですか…っ…」
「ふふ。」
抱き寄せられて彼の白衣に埋まる。
薬品の匂いが香った。
浅葱。
金。
ピンク。
…たまにはモノトーン以外も悪くない。
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げ、現代パロ?(笑)
なんだか唐突に思い立って書いてしまったので、設定なんか超適当です。
07/3/不明
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