「と、いうわけなんだけどさ、楊ゼン。理解できた?」
         「いや…黒点虎、出来たけどさ…できたけど…」


         だからってどうしろと…?




           楊ゼンくんの恋人。(出会い編)




         黒点虎の毛並みに埋もれていたのは、全長約16cmの申公豹だった。
         なんでも朝起きたら突然こうなっていたらしく原因は不明。
         黒点虎は自分じゃ対処の仕方が分からないから不本意ながら…あくまで本意ではない…預ける事にしたらしい。


         「でも、僕より太上老君の所にいた方が申公豹もゆっくり出来るんじゃないのかい?」
         「はは…君は老君のことあんまり知らないからそんな事言うんだろうけど…
         老君がこんなちっちゃい申公豹見たら…何するか…わかんないんだよ……」
         「そ、そうなんだ…。」
         「うん…。で、君いちよう申公豹の恋人なわけだし、面倒見もよさそうだから頼んだんだけど…だめ?」


         だめ、なんて言える訳がない。


         ここで僕が断ったら黒点虎はあてが無くなってしまうだろうし、それよりなにより…


         かわいいのだ。


         その16cmの申公豹は。


         僕以外のやつに見せてたまるか。
         しかも預かるって事は一緒に生活できるってことだ。
         こんなオイシイ話を断ってどうする。


         「いいよ。」
         「ほんと!?」
         「うん、預かるよ。」
         「ありがとー!ほんと助かるよ、元に戻る方法が見つかったらすぐこっちくるからさ。」
         「うん。」
         「じゃぁよろしく頼むね、……間違ってもいかがわしいことしないでね…?」
         「う、うん。」


         それは自信ないなぁ…と言えるわけもなく。
         僕は引きつった笑いで答えた。


         僕は黒点虎の毛の中に埋もれている申公豹を掌に乗せた。
         小さくなった申公豹を落とさないようにいつもより随分低速で黒点虎が駆けて来た為に、
         長くなった道のりの中で彼は眠ってしまっていた。


         ほんと、小さい。


         かつてこれほど気を使って物(いや、人なのだが)を掌に乗せたことはないだろう。


         「それじゃ、行くね。ほんとにほんとによろしくね。」
         「うん、わかった、安心して。」


         黒点虎はひょ、と飛び上がって駆けるまでに何度もこちらを振り返っていた。
         最愛の主人と離れ離れになるのは本人も辛いのだろう。 
         僕は完全に視界から消えるまで黒点虎を見送って、それから手の中の申公豹に視線を落とした。


         「かわいい…。」


         もとより可愛い彼が、こんなに小さくなってしまって可愛らしい事この上ない。


         「んー…」


         ころり、と手の中で丸まって寝ている申公豹が寝返りを打つ。
         まだ寝るのだろうかと思って見つめていると、黒点虎の毛の感触が無くなったのを不審に思ったのか、
         そのままパチリと目が開いた。


         「……楊、ゼン…?」


         目が覚めて上半身を起こした状態の申公豹と、目が合う…とは大きさの関係上適切な表現ではないが…
         寝ぼけ眼の申公豹は驚いたようにこちらを見ていた。
 

         「おはようございます、申公豹。なんだか大変なことになりましたね…。」
         「おはようございます…。そうなんですよ…大変です。しかし貴方が私の世話をしてくださるとはありがたい事ですね。」
         「いえ、そんな…。」
         「ありがたいですよ。だってもし老子だったら。…老子だったら…。…。…考えるのもおぞましい…。」
         「そ、そうなんですか。」

         申公豹と黒点虎の同じような口ぶりに、太上老君って一体どんな性格なんだ…?
         という思いが一瞬頭を掠めたが、そこは一まず置いといて。


         とりあえずどこかに申公豹を降ろさなければならない。


         きょろきょろと辺りを見回すと小さめの籠(バスケット?)と柔らかいタオルがあったので、
         一まずタオルを籠にしいて、その中に申公豹を降ろした。


         「…狭くないですか?」
         「ええ。快適ですよ、結構。」
         「それは良かったです。」


         タオル地の感触を確かめるように、申公豹が籠の中をうろうろとしているのを見て、ついつい頬が緩む。


         こういう言い方は彼に大変失礼なのだが、何だろう…小動物?
         そう、新居にそわそわする小動物のようで大変かわいらしい。
         歩き回るのに飽きたのか、申公豹はそのうち籠の真ん中にちょこんと座った。
         僕を見上げる彼と視線が合うように、腰を屈める。


         「楊ゼン。」
         「なんですか?」
         「よろしくおねがいします。」
         「へ?」
         「へ、じゃないです。ですから、よろしくおねがいします、これから一緒に住むので挨拶です。」
         「あ、あぁ…なるほど。」


         ここで、なんか新婚みたい…と思った僕を誰か殴ってくれ。
         だって、なんかこれじゃあ…申公豹が僕のところに嫁いできたみたいだ。
         「よろしくおねがいします」だなんて、普通の言葉なのに。


         「よろしくおねがいしますね?楊ゼン。」
         「こちらこそ、申公豹。」


         そうやって、小さな彼の小さな掌と、人差し指で握手をした。
         
         
         目の前には思い人。 
         あがる心拍数。
         はやる心。


         あぁ、どうしよう。


         こんなかわいい恋人と一緒に住んで、何も起こらないわけがない。










          ――――――――――――――――――――――――――――――
          日記でうだうだ言ってたのがちゃんと話になってよかったです!
          楊ゼンが普段の3割り増しくらい変態くさい話になりますがご了承ください;


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