なんだかぼーっとしてしまう。
なんだか貴方ばかり見てしまう。
なんだか胸が痛い。
ほら、まただ。
こいわずらい
最近老子を見ると、心臓がきゅうと痛くなる。妙に動悸がして、冷静になれない。
今まで何とも無かったのに。
どうにも居心地が悪いので、黒点虎に聞いてみた。
「…。…申公豹、それさぁ…老君に言ったの?」
「え。言ってませんけど…やはり何かの病気ですか?」
「いや、違うけどさぁ…まぁいいや。とにかく病気ではないから!安心しなよ。」
「そうなんですか?」
「うん、大丈夫大丈夫。」
黒点虎はそう言うと、一人納得したように頷いていたので、なんだか悔しくなってリビングにお茶を飲みに行った。
一方黒点虎は。
「…あー申公豹もやっと気付いたかぁ。老君も大分前からアプローチかけてたけど、よく今まで手出さなかったよね…。」
と一人ごち、
「これで老君に愚痴られることもなくなるし!めでたしめでたし。さぁー寝よぉ。」
そのまま伸びをして、昼寝を開始していた。
リビングに着くと老子が珍しく起きて…と思ったら机に肘を立てて寝ていた。
お茶を入れて向かいの椅子に座る。
(…きれいな顔…。)
長いまつげに白い肌。男のくせに仙女なんか目じゃない位の端正な顔だ。
湯飲みを両手で持ったまま、幸せそうに眠っている老子をぼんやりと見つめていた。
ちくん。
あ…まただ。
また心臓が。棘が刺さったみたいにジクジクと鈍い痛み。
それになんだか知らないけれど、自然と口元に目が行ってしまう…気がする。
顔が熱い。
カタン。
湯飲みを置いて、椅子から立ち上がって身を乗り出す。
規則正しい呼吸。確かに老子は眠っている。
例えば…今キスしたって、きっと起きない。
きっと。
もう少し身を乗り出す。互いの呼吸が肌をくすぐるくらいの距離まで顔を近づけたが、そこで止まってしまった。
ちくん。
胸が、いたい。
「―――――しないの?」
「っ…!?」
驚いた。
眠ってたんじゃなかったのか。
目の前には何もかも見透かすような金色の瞳。いや、実際見透かしているのだ。
今私が何をしようとしていたのかも。
「ろ、うし…その…っ…これは…。」
「…君がしないなら私がするけど?」
「ぇ…?」
老子の言ったことを理解する前に、後頭部が引き寄せられて、くちびるが重なった。
「んっ…ぅ…は…ぁっ…」
「クスクス、顔真っ赤だ。申公豹。」
しっかり舌まで堪能されて、老子がくちびるを放した頃には私の体の力はもうほとんど抜けていた。
「な…なんで…?」
「キスのこと?なんでって…申公豹が好きだからだけど。」
「す、…き…?」
私は今その言葉を初めて紡ぐ赤子のように拙い音で声を発した。
頭が混乱する。
すき?
”すき”って”好き”…?
…老子が、私を?
「そう、好き。私は君が好きだよ。…申公豹は…?」
「わ、私…?私は……」
私は老子を好きなんだろうか…?
ちくん。
痛い、いたいいたい。
何でこんなときにっ…いたくてたまらない。
「ぇ…っ申公豹?何で泣くの…もしかして嫌だった…?」
「泣いてなんかっ…!」
泣いてなんかいない、と思ったのに。
頬には冷たい感触。どうして涙なんか、悲しくなんか無いのに。
何も言い出せずにいると、老子が乗り出した私の上半身を抱き締めた。
「ごめん、嫌だったなら謝るから。泣かないでよ…。」
嫌じゃない。嫌なんかじゃない。むしろ…。…。
「っ…わからないんです…。」
「え…?」
「最近老子といると…急に心臓が痛くなったり…っずっと、目で追ってしまったり…貴方のことばかり考えてる…っ…」
ぐずぐずの涙声でそういうと、老子が驚いたようにこっちを見た。
「それ、ほんと…?」
「っ…嘘言ってどうするんですか…っ…」
とたん、ものすごい勢いで抱き締めなおされた。
「ふふっ、ほんとに?ねぇ…申公豹。」
「本当…です、よっ…」
老子はこれまで見たことが無いくらい嬉しそうに微笑んだ。
千年の眠りも覚めるほど美しかった。
「じゃぁ両思いだ。」
「は…?」
「あれ…気付いてなかったの?今言った症状は、全部恋の所為だよ。」
「こ、恋…?」
「うん。君は私に恋してる。」
恋?まさか!
けれどそう言われてみれば確かに…。
あぁ、そうか。
さっきのキス…嬉しくて涙が出たのか。
「納得した…?」
「…。…ええ。確かに私は、貴方が好きです。」
ちくん。
あぁ、もう痛くない。…なんだかむしろ、くすぐったい。
「だいすきです。」
そう言って、さっきは出来なかったキスを、目の前の美貌に送った。
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乙女過ぎましたか…申公豹が…(笑)
すごくありがちなネタをありがちの展開で書いてみました。
途中で「最近老子」と変換しようとしたところ「細菌老子」となってしまい
すごく老子が不憫になりました。
07/2/不明
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