「こういうやり方は良くないっていうのは、わかってるんだけどなぁ…。」


              片手に握った小さな小瓶を見つめて、ため息と一緒に楊ゼンが呟いた。


              魔法をかける



              「なんだかいい匂いがします…。」


              ふらりと僕の部屋にやってきた申公豹が呟いた。
              僕はその言葉に、待ってましたとばかりに返事をする。


              「あ、実はケーキを焼いたんですよ!」
              「へぇー貴方器用なんですね。食べて良いんですか…?」
              「もちろんです。」


              と、いうか。貴方が食べないと意味ないんです、申公豹。
              にやける顔が彼にバレないか心配だ。
              八等分に切り分けたケーキの一つを皿に盛って、座りもしないでじっと僕の動作を見ていた彼に手渡した。


              「ありがとうございます。」


              あぁそんな嬉しそうに微笑まないでください。
              罪悪感にさいなまれてしまう。



              だってそのケーキの中には、媚薬が入ってるんですから。



              「…おいしいです。とっても。」
              「そうですか!嬉しいです…。」


              椅子に座って、幸せそうに僕のケーキをほおばる申公豹は文句なしにかわいい。
              思いっきり緩んだ顔で、ケーキが彼の口に入っていく様子を眺めた。


              「ごちそうさまでした。」


              からん、とフォークが彼の白い指を離れて音を立てた。
              ケーキは申公豹の体内に取り込まれた。つまり、媚薬は彼の体内に入ったわけである。
              これでもう僕は薬が回るのを待つだけ。


              それから僕らはさっきのケーキの作り方やら、取り留めの無い世間話を重ねた。
              時計の針が進んでいく。
              薬は彼の体内を巡って、そして。


              「っ…?」


              ふと、さっきまで普通だった申公豹がうつむいた。その口が片方の白い手で覆われる。


              「どうしました?」


              僕は悪いやつだなぁ。だってものすごく自然に会話が出来るんだから。


              「ぃ…いえ…。」


              うつむいたままの申公豹が答える。声が少し震えていた。
              そのうちに彼は両足を椅子の上に上げて、膝に額をくっつけて顔を見えなくしてしまった。


              申公豹、それじゃどこか体調が悪いんだって事、バレバレですよ…?


              「申公豹?お腹痛いんですか…?」
              「ち、違うんです…あの…大丈夫ですから…っ…」


              小さく丸まってしまった体に手を伸ばす。顔を上げるように言うと、いやいやと頭を振られた。


              「どうしたんです…?僕に言うのは嫌ですか…?」


              思った以上に悲しそうに言えた。どうやら僕はとことん演技派らしい。


              「ち…違…っ…」
              「じゃぁ顔を見せて…?」


              戸惑いがちに申公豹の顔が少し持ち上がる。隙を突いて、顎を持ち上げた。


              「ぁ…っ…」



              嘘…。


              媚薬ってこんなに効き目あったっけ…?


              おもわずそう思ってしまうくらい。
              申公豹の白い頬は朱に染まり、大きな群青の瞳は潤んで涙がこぼれそうだった。
              柳眉は悲しそうに曲げられ。薄く開いたちびるからは甘ったるい吐息。


              「ぅ…見ない、で…っ…」


              無理です…。
              なんだろう。何でこの人はこんなに可愛いんだろう。


              恥ずかしそうに背けられた顔をこちらに向かす。
              口を塞いでいた手を取り上げて、キスをした。


              「っん…んぅ…っ…」


              ケーキの甘さがしみこんだ口内に割って入り、逃げる舌を追いかけて絡ませた。
              彼の息が乱れる。薬で敏感になった体はキスだけでびくびくと震えていた。


              「はっ…や、めてくださ…」


              くちびるを離すと消え入りそうな声が聞こえた。こんな声を聞かされて、止める男がどこにいるんだろう。
              申公豹の閉じられた足の間に手を伸ばす。
              彼は事態を察して暴れたが、あまり力が入らないようでたいした抵抗にはならなかった。


              悪戯好きな僕の手は、布越しに彼の性器を撫で上げた。


              「――っあ…!」


              ただそれだけのことなのに、申公豹の体はびくんと跳ね上がって強張った。


              「…どうしたんです?まだキスしかしてないですよね…?」


              勃ちあがった性器の形を確かめるように撫でながら言う。
              お前の所為だろうこの馬鹿っ…とか余裕で言われるだろうと思っていたのだが、申公豹は真っ赤になって俯くばかり。


              もしかして、僕が媚薬を盛ったことはおろか媚薬を飲まされたことにすら気付いてない…?


              「変…な、んです…体が…っ…熱くて…」
              「おや…どうしてでしょうねぇ…。」


              やっぱり気付いてない。
              時々思うのだが、この方は博学なくせに、こと性に関しては極端に疎い。
              そういうのって…なんか犯罪的だ。


              「ふぁっ…ぁ…ゃめ…楊ゼ…っ」
              「かわいい…。」


              薬で熱の上がる体にどうしたら良いのか戸惑う申公豹のか細い指が、僕の腕にすがって食い込む。
              執拗に性器を撫でていると、布越しでも十分それが張り詰めていくのがわかった。


              「ぁ…っや…――――あァ…っ!」


              ぎゅっと強く扱くと、彼は大きく体を震わせて達した。
              彼の顔をわざと覗き込むようにして尋ねる。


              「…イっちゃいましたか…?申公豹。」
              「っ…はぁ…ぁ…」


              乱れた呼吸に混じる甘ったるい声に何とも言えない気分になる。
              もうここじゃぁ無理だなと思って、椅子の上から申公豹を抱き上げた。


              「っわ…!?」
              「ベッドに行きましょう。」
              「えっ…ちょっ…ま、待ってくださ…っ楊ゼン!」


              ばふっ、と音を立てて申公豹の軽い体がシーツに沈む。
              彼がその衝撃に驚いている間に、素早く馬乗りになった。
              見下ろせば、申公豹の潤んだ目とかち合った。群青の瞳が薬の熱と愛撫の熱で揺れていた。
              申公豹の体が、居心地悪そうに動いた。


              「あぁ、脱ぎましょうか。下着濡れちゃいましたしね?」
              「ぃ…嫌…っ…!?」


              抵抗する体を押さえ込んで服を脱がしていく。
              彼の性器は熱を放ったばかりだというのに、また小さく反応を示していて、媚薬というのは本当によく効くものだなぁと感心した。


              「…随分敏感じゃないですか。また勃ってますよ…?」
              「ゃ…っやだ…っもう見ないでくださ…っ…」


              そう言って、申公豹はあんまり恥ずかしかったのか、腕を交差させて自分の顔を覆ってしまう。
              そういうところがいちいち可愛いって事に気付いてないんだろう。
              自分は媚薬なんて摂取していないのに、この方といるとすぐに体が熱くなる。今日だって変わらない。
              顔を隠した腕を引き剥がすと、申公豹を強引にうつ伏せの状態にした。
              といってもお尻が持ち上がっているので、なんだか伸びをしている猫のよう。


              「なっ…!」
              「よく見えますよ、申公豹のここ。」


              つぅっと指を滑らしたのは言わずもがな彼の後孔だ。
              ヒクつくそこはいつも以上に卑猥に見えて、今すぐにでも押し入りたいと思った。
              が、そんなことをした日には一言も口を聞いてもらえなくなるだろうから、我慢して唾液でぬめった指を挿し入れた。


              「ひ…ぁ、あっ…やだぁ…っ」
              「嫌じゃないですよね…?僕の指、離してくれませんよ、ここ。」
              「は…ぅ、嘘…っ」
              「嘘じゃないですって…ほら、もう3本も入りましたよ?」
              「そんな…っ…ひゃぅ…っ」


              これも薬の所為なんだろうが、申公豹の中はいつも以上に熱くて緩い。
              指をばらばらに動かすと、ひくひくと体が跳ねた。
              快楽に呑まれないように、申公豹は爪が白くなるほどシーツを握り締めていた。
              それが何となくかわいそうになって、そっと自分の掌で包み込む。
              申公豹がこちらを振り向いた。


              「あの…挿れてもいいですか…?」


              馬鹿みたいに遠慮してる自分が可笑しかった。
              なんなんだ、自分から薬を盛っておいて。
              あぁでもこの方にはやっぱり嫌われたくないのだ。確認しないと怖くてたまらないんだ。



              「…今更…聞かないでください…よ…」



              そう言ってあんまり綺麗に申公豹が微笑むものだから、なんだかさっき怖がっていた自分が馬鹿みたいだった。


              「それも…そうですねぇ。」


              小さく笑って、そうして彼の細い腰を掴んで、白い体を穿った。



              「――――っぃ…あぁ…っ!」
              「ぅわぁ…熱い…。」


              まるで熱があるみたいだった。気持ちよくて溶けそうだ。


              「ぁ…あっ…ぅ…よぅぜん…よぉぜ…っ…」
              「…っ…ほんっと…かわいいですよね…。」


              シーツに埋もれてくぐもった甘い声が、僕の名前を紡ぎ続けた。
              それがどうしようもなく可愛くて、僕は夢中で彼を抱いた。


              「ぁっ…ぁ…よぉぜっ…も…無理…っ」 
              「っ…は、い…」


              どくん、と目の前が白くなるぐらい血が高鳴って、僕らは互いに精を放った。












              翌日、重い腰を抑えて起き上がった申公豹が不思議そうに問いかけた。


              「そういえば…どうして昨日は突然あんなに体が熱くなってしまったんでしょうか…?」 


              口元に手をやって、考え中の申公豹。
              天然というか、鈍感というか…まだ媚薬のことに気付いてないらしい。
              僕はくすりと一つ笑みをこぼして、こう言った。



              「さぁ…?魔法にかかったんじゃないですか?」





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              一度はやってみたい媚薬ネタ!とっても楽しかったです(笑)
              もっといろいろ盛り込みたかったような気もするんですが、
              それはまた別の形で書くという事で。
 
              07/2/不明
 
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