老子の思いつくことは、ロクなことがない。
無駄遣い
ぼーっと眠そうな顔が、一変してキラキラと輝きだすと危険信号。
ああ、もう、今すぐ逃げ出したい。
「ねぇねぇ、申公豹。」
「…なんです。」
「脱いで。」
「っっの…ばか師匠ッ!!」
「ぅわぁっ!ごめん違うからソレしまって!!」
太上老君をたっぷり脅してから、申公豹は取り出した雷公鞭を仕舞いなおした。
「昼間から変な事言わないでくださいっ」
「だから違うってばぁ。これ着てって言ってるんだよ。」
これ、のところで何やら太上老君は衣服を取り出してきた。
それを見た申公豹の顔が固まる。
「…なんですソレ。」
「え?あー知らない?今さぁ下(人間界)でこーゆう服着た女の子がいっぱいいる喫茶店が流行ってるんだよv」
語尾にハァトまでつけて太上老君はご機嫌である。
一方申公豹はと言えば…呆れと怒りを通り越して笑いかけである。
「ふふ…それは知りませんでした。で、どうする気ですかソレ?まさか私に着ろなんて言いませんよね。」
にこにこ。
「クス、嫌だなぁ君のために買ってきたんだから、君が着なきゃ意味ないじゃない。」
にこにこ。
双方沈黙が続き、部屋に何とも言いようがない圧力が満ちる。
顔は笑っているが、この二人の場合恐い以外の何ものでもなかった。
そんな中、先に沈黙を破った…というか黙っていられなくなった…のは申公豹だった。
「ッそんなフリフリの服着られるわけないでしょうが!だいたい私は男です!!」
「えぇー大丈夫だって。ちゃんと申公豹のことを考えてシックなの選んできたんだから。」
「私のことを考えるなら買ってこないでくださいよッ!」
やいやいと一向に話がまとまる様子はないし、解決しそうにもない。
怒声を飛ばした所為で肩で息をする申公豹を前に、太上老君がふぅとため息を吐いた。
「もう…しょうがないなぁ。着てもらうのはあきらめるよ。」
「やっと分かってくれましたか。良かったです。」
とりあえずあれを着る危険を回避した、と安心した申公豹が気を抜いた、その時。
「――っ…痛…!」
がたん、と大きな音共に申公豹がテーブルに背中をぶつけた。否、太上老君に押し倒された。
「なんなんですかっ!あきらめたんじゃ…」
「うん、あきらめたよ?…“着てもらう”のはね。」
「は…?」
「ふふ、だから…君に着てもらうんじゃなくて、私が無理矢理着せる。」
「はぁ…っ!?」
それはあきらめたとは言わないんじゃないのか、と申公豹は思ったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
必死に暴れたが、片手でまとめ上げられた腕はびくともしなかった。
平均男性のそれより細いくせに、どこからこんな力が出るんだろうかと、申公豹は唇をかんだ。
「力で敵うと思ったの…?」
耳元で囁かれると、くすぐったさに申公豹はぴくんと肩を震わせた。
その間にも、太上老君の器用な手は申公豹の服を脱がしていく。
「ぃや…ですっ…離してくださいっ…」
「だめ。申公豹が素直に着てくれないからじゃない。」
「なんで…そう、なるんですか…っ」
上半身がほとんどはだけた頃には、太上老君の眼つきがすっかり変わってしまっていた。
…なんというか、獣の目。
「なんか…この体勢になってたら、服とかどうでも良くなってきちゃったなぁ。」
くすり、と一つ笑みをこぼして、太上老君が申公豹の目を覗き込む。
「な…なんです…?」
「ねぇ、シよっか…?」
「じょ、冗談じゃ…っ!!」
ない、と言おうとした口は、太上老君の唇に塞がれて言葉を紡ぐことはかなわなかった。
銀糸を引いて唇が離れたころには、もう時既に遅し。
そのまま太上老君のペースに持っていかれてしまったのであった。
やっぱり、老子の思いつきはロクなことがない。
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老子の買ってきた服はメイド服です。
たぶんこの後、結局申公豹はメイド服を着せられて、老子に美味しくいただかれるんでしょう。
申公豹にメイド服なんて似合うわけあらへんわぁ!と思ってらっしゃる方、
一回脳内で想像と言う名の妄想をしてみてください。
結構似合いますから(笑)
07/6/3
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