溺れる
「っ…ん、ぁあ!」
触れたのは一瞬だった。
赤く色づいた胸の突起にするりと指が絡んだ、ただそれだけ。
けれど上がった声はどこまでも甘ったるく、理性も思考もとろけていく。
別に開発したつもりはない。もともと彼の其処は敏感だったのだ。
でも彼はそれを認めようとはしないだろう。
あなたが触るからこうなったのだ、と今だって寄越される視線はそんな言葉を含んでいる。
「ひっ…ゃ…めっ…」
そんなことないでしょう、と私は口には出さずに指先に力を込める。
後ろから抱き抱えた華奢な体はびくびく震え、潤んだ視線がまた私を見つめてくる。
群青色の大きな目は甘く歪み、銀色の睫毛に涙を乗せて私を睨みつけていた。
そんな目で睨んだって、こっちを煽るだけなのに。
何度身体を重ねようと、彼はそこらへんをちっとも理解していない。
ほら。またそうやって私の腕に爪を立て、届きもしない抗議をする。
「ねぇ申公豹。ここ、そんなにきもちいいの?」
「ぅ…ち、ちが…きもちよく、なんか…っあ、ァ」
ない、と続けようとした言葉は嬌声に変わった。
もうぷっくりと立ちあがったそこを焦らすように押しつぶす。
弱々しい刺激がもどかしいのか、申公豹はゆるゆると頭を振る。
白金の髪が音を立てて揺れ、合間から赤く染まった耳が見えた。
これで気持ちよくないなどと言われて、一体誰が信じるというのだろう。
それに、膝を閉じ合わせて必死に隠そうとしているが、彼の性器はとっくにズボンを押し上げてしまっている。
「こんなにしといてそれはないでしょう?ほら、」
「っ、――ッ」
ストライプのズボンを下着ごと器用に引きずりおろすと、現れたそこがふるりと震えた。
私は一度だけ撫でるように触れ、指を離す。
緊張に強張った身体が弛緩する。その一瞬の安堵を叩きつぶすように、私はまた彼の尖りきった胸の先端を弄った。
「やっ…も、もう…いや…いや、です…っ…」
「何がいや?」
「な、にって…ぁ、あっ」
「胸しか触ってもらえないこと?下を弄ってもらえないこと?それとも…」
固く閉じてしまっている申公豹の瞼を開かせようと、眦にキスをする。
目を開けてと耳元に注ぎ込めば、かわいそうなほど従順に彼はうっすらと目を開けた。
「…それとも、胸だけでイっちゃいそうになってること…?」
「ッ――!?」
群青色の目を見開いて、申公豹は目の前の光景に信じられないと視線を外した。
直接触ったのは一度だけ。けれど勃ちあがったそこからはとろとろと液が溢れていた。
「ち、ちが…こんな、の…」
信じられない、信じたくないと力なく頭が振られる。
気持ちいいと認めてしまえば、快楽の海に溺れられるというのに、彼のプライドの高さがそれを許さない。
目元を真っ赤に染めて、とろけた群青が私を見る。
君は今、自分がどんなに人を煽る顔をしているのか分かっているのだろうか。
いいや分かっていないだろう。そうでなければどうしろというんだろう。
これ以上君に溺れろって?
…もう溺れきっているっていうのにね。
「も…もぉや、やめっ…て、おねが…ッ」
摘んだり抓ったり潰したり、時間をかけて丹念に弄くっていると、もう耐えられないとばかりに申公豹が声を上げた。
溢れた先走りはシーツをぐっしょり濡らしてしまっている。
懇願するような視線がもう何度も送られてくるが、そのたびに知らないふりをした。
「だーめ…ほら、もうちょっとでしょう?」
「あ、あ…っや、いや…です…も…もぉ…っ」
細い腰は何度も震え、華奢な足先がぴんとのびる。
そんなところで達したくないと、まだ彼はぎりぎりで我慢している。
そんな姿がかわいくて、いじめたくて仕方がなくて、私は最後の一撃とばかりに彼の左胸を舐め上げた。
「っひ…あ、あァッ!」
びくん、と申公豹の身体が大きく震える。
何度か痙攣を繰り返した身体からどっと力が抜け、申公豹の白い腹と皺だらけのシーツにはべったりと白濁が飛散してしまっていた。
上から彼の顔を覗き込む。頬は真っ赤に染まって、眉はへにゃりと下がってしまっていた。
恥ずかしくて死にたい、言葉で表すならそんな感じである。
涙の伝っていた頬に、小さくキスをして笑う。
「あーあ…胸だけでイっちゃったね、申公豹。」
「んっ…」
耳元で囁くと、吐く息にすら敏感に反応し小さな喘ぎ声が漏れる。
息が整わないまま、絶え絶えに、蚊の泣くような声で紡ぎ出された彼の言葉はといえば。
「ろ…ろぉしの…ばか…っ」
なんて可愛らしいものだったので、てっきり罵詈雑言を浴びせられる予想していた私は毒気を抜かれ、そして悶えるほどの愛おしさを感じるのだった。
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完全に深夜テンションだったので正直読み返したくない…(笑)
敏感な申公豹かわいい。淡白でもかわいいけど。なんだってかわいいけど。
2012/6/7
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