「ん、っ…」


溶けるように、白金の髪がシーツに広がった。


目尻からキスを落として、唇までたどり着く。
ふわりと香る香りは、いつもは僕が使うソープの匂いだった。
それが無性に嬉しくて思わず微笑む。
ぬるりと口内で舌を絡ませて、離すついでに彼の下唇を舌先で舐めた。
銀糸を引いてくちびるを放しては、角度を変えてまた繋ぐ。


「ふ、ぁ……」


最中に片手で上着を脱がしていくと、白い白い肌が現れる。
日の光に晒したことのないような滑らかな白。
唇を放した頃には、申公豹の身体からすっかり力が抜けていた。
何度も抱き締めているから分かっていたことだけれど、小柄な身体は華奢で。
本当に、壊してしまわないだろうかと不安に思った。


「っ…」


白い肌に淡く浮かぶ、コーラルの胸に指先で触れると、ぴくんと申公豹の身体が跳ねた。
そのまま摘むと、鼻にかかった甘ったるい息が漏れて、また一度彼の身体が震える。


「敏感、なんですね。申公豹。」
「そ、んなことな…――っあ…!?」


ぬるりと胸を舐め上げると、高い声があがった。
僕も驚いたが、彼はもっと驚いたようで、口を手で覆ってしまった。
赤い顔は耳まで染まっている。


「…さっき、かわいい声なんか出ない、なんて言ってらっしゃいませんでしたっけ?」
「かわいくなんか…っ…変、です…。」
「どこが変なんですか。かわいいですよ、とっても。」


だから隠さないでください、と口を覆っている手を剥がして、また胸の先端に舌を這わす。


「っぁ…やぁ……」


鼓膜から体温を上げられる、なんて、考えもしなかった。
普段と違う声。
普段と違う息遣い。
聞いたこともないような、身を灼かれるような声。
もっと聞きたくて、僕は手を下へとずり下げていく。


「もう、そろそろキツいんじゃないですか?こっち。」


服の上から熱を帯びている下腹部に触れると、彼の身体が強張った。


「や、めっ…」


制止の声など無視をして、下着の中に手を滑り込ませる。


「ひぁっ…や…やぁっ…」


そのままズボンを下着ごとずり下ろして、性器に指を絡める。
震えるそこはねっとりと蜜をこぼしていた。


「嫌じゃなさそうですよ、申公豹の。」
「み、…見ないでくださ…」


隠そうと閉じる脚を強引に押し開く。
とくんとまた蜜をこぼしたそこを、美味しそうだと思ってしまったのが間違いだったのかもしれない。


「よ、楊ゼ…っ何して…!?」
「だって美味しそうなんですもん。」


そういって僕は、彼の性器に舌を這わした。


「ッ…!?や、あぁっ…やめてくださ…っ…」


咥えこんでもったいぶるように舐める。
合間に彼の表情を伺って、僕は息を呑んだ。


「ひぅっ…お、ねが…ですから…っ…も…は、放して……」


あの、プライドの高い彼が、涙を一杯にためて、懇願しているのだ。
瞳を甘くゆがませて、震える唇を噛んで。
ただの一度も、こんな表情見たことがない。これから彼以外で、見ることもないだろう。


「楊ゼ…よぉぜ…っ…はなして……」
「なぜです?…気持ちいいでしょう…?」
「あぁっ…だっ、て…も…もぅ…」


イってしまう、濡れた群青の目が語っていた。
僕は、それがかわいくて微笑んだ。
いいですよ、と瞳に言葉を込めて。



「――あ、ぁっ…ッ!」



口内に吐き出された白濁を、そのまま飲み下して思案する。
困った事に、一般的に美味しくないとされているものが不味くない。
愛で味覚が変わるのか、それとも彼のはこういう味なのか。
どちらにしろ、彼のそれは不味くなかったのである。






「な、なにしてるんですか…っそんなの…」


何の躊躇いもなく精液を飲み込んだ僕を、信じられない、といった表情で申公豹が見ていた。


「美味しいですよ?」
「ばっ…!お、お腹…壊したらどうするんです…!?」
「それは…それで本望ですね。」


にこりと笑ってそう告げると、呆れた申公豹ががっくりと肩を落とした。


「お腹壊したら…看病してくださいます?」
「…しません。…自業自得です。」
「あはは、なるほど。あぁ、でも…お腹が痛くなるのは申公豹かもしれませんよ。」
「え…?」


すっかり無防備になっていた彼の後孔の入り口にひたりと指を当てると、申公豹の身体が強張った。


「や…」
「あ。安心してください、ちゃんと痛くならないように後処理しますからね…?」
「ん、んぅ…っ」


唾液の絡んだ指が、ゆっくりと彼の内部に埋まっていく。
申公豹を見ると、耐えるようにぎゅっと目を瞑ってしまっていた。


「大丈夫ですか…?」


問えば、こくりと頷きが返る。
そのまま奥へと埋めて行くと、内壁が絡み付いてきた。


「ん…、はぁっ…」
「結構貪欲ですね…申公豹のここ。」
「そ…そんなことな…っ…」


指が熱い。


奥まで入れた指を入り口まで引き抜くと、申公豹の身体がぞくぞくと震えて、途端に指が強く締め付けられる。
身体の反射だと分かっていても、僕を放すまいとしているようで嬉しくてたまらない。



「――っあ…!」



ある一点を押し上げると、甘い声が濃度を上げて溢れる。


「気持ちいいですか?」
「や…やぁっ…だめ…で、すっ…!」
「申公豹のダメはイイってことでしょう…?」
「ち、違…っぁ…ゃあ…!」


重点的にそこばかり触ると、細い身体がびくびくと跳ねる。
さっき射精したばかりの性器は、また反応を示し始めていた。


「気持ちよくないんだったら、ココこんなになりませんよ。」


少し意地悪に、空いている手で性器に触れると、恨みがましそうな目がこちらを見ていた。
といっても、そんな潤んだ瞳で見つめられても怖くないのだが。


狭い入り口はもう数本の指を飲み込んでいた。
性器と、肌を伝って後ろまで流れてきた先走りの液も相まって、後孔はくちゅくちゅと水音を立てる。


「ぅ…よぉぜっ…も……苦しい…から…」


泣きそうな声が、聞こえた。


「苦しいから…?」


問い返すと、申公豹は、う、と声を詰まらせて桜色の頬をさらに染め上げた。
後ろから指を全部引き抜いて、言葉を発するのを躊躇う彼の顔を真上から窺う。
左右に瞳が揺らいだ後、意を決して彼が言った言葉は、



「だ、から…た…たすけてくださ…」



だったわけで。
それがあんまりかわいかったので、僕は笑って彼の頬に唇をおとした。










ガァン!と遠くで落雷の音。
木にでも落ちたのだろうか、と一瞬考えるが、すぐに意識は引き戻される。


埋まった内部は溶けそうに熱い。


「っは…ぁ、あぅ…」


申公豹の快楽に細めた目の淵に、涙が見える。
白金の睫毛に乗った涙。


「あ…ッ」


一度奥を突き上げると、申公豹の身体が跳ねて、瞑られた瞳から溜まった涙が舞った。
僕の背中に、痛みと快楽から逃れようと爪が立てられる。
でも、彼の内部から得られる快楽の方が大きくて、そんな痛みはちっとも気にならなかった。
触れ合った肌は少しの汗を含んで、ぴったりと吸い付く。
白磁の肌は滑らかで、離れるのが惜しい。


もう彼のことしか考えられなかった。
彼のこと以外考えたくなかった。


「申公豹…」
「あっ…、…っ…?」
「後悔、するって…おっしゃってましたよね…」


会話の合間に、ぐっと腰を押し進める。
おそろしいぐらい艶のある声があがった。


「は…、あッ…!は、い…」
「後悔…してます、よ…」
「…」


薄く笑ってそう告げると、もはや痛みは消え、純粋な快楽の中で彼が困ったように笑った。


多分、というか確実に、彼の考える「後悔」と僕の言う「後悔」は意味が違うだろう。
申公豹はきっと、「自分が女じゃないから僕が後悔する」と思っているのだ。
身体つきが違うから。声質が違うから。非常識だから。
…冗談じゃない。
僕を甘く見ないで欲しい。そんな後悔するもんか。
僕がしているのはもっと別の後悔だ。


「だって、貴方がこんなにかわいい声で、鳴くのも…表情するのも…今まで知らなかったんですよ…?」
「…?」
「だから、行為に踏み切るのが遅れた自分と、あなたに出会う前の…幾年を、後悔しましたよ、今。」


そう言って緩く抱きしめると、申公豹の大きな瞳がもっと見開かれて、その後彼はクスクスと笑った。
「お世辞が上手ですね」と、吐息だけのような声が聞こえてきたので「お世辞じゃないです」と半ば本気で反論して彼の顔を見ると、
それは綺麗に微笑っていたので、どうやら僕の想いは届いたようだと胸を撫で下ろした。


奥まで埋まった下肢が疼く。
限界が近いのはお互い様だった。
もう溶け合ってしまいたかった。
断続的な水音と、荒い息遣いと、彼の甘ったるい声が部屋に響く。



「――っ…ァ、あっ…!」



お互いの精液を吐き出すと、ふっと意識が遠のきそうになる。
僕は何とか持ちこたえたが、申公豹はそのまま気を失ってしまったようだった。


まだ上気したままの頬にそっと手を添える。
柔らかく弾力のある肌は指に心地よかった。








遠くでまた、雷鳴が響く。


ああそうだ。


僕は今日という日を、この雷鳴とともに刻み付けたのだ。











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やっと書けました。
ほんとよかったです。一時期は進まなくてどうしようかと…;;
申公豹の服はずぶ濡れでお風呂はいったのに、下着はいてるって事はどうなの?楊ゼンのなの?
っていう疑問が…ずっと頭から離れないんですけど…(笑)
皆さん、そこはスルーしましょう。

07/8/30-31

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