「申公豹!居るか!?」
  「…なんなんです?太公望…こんな夜遅くに…まだ眠…」
  「いいから来てみよ!」
  「はぁ…?」


  気付けば彼に腕をとられ、走り出していた。



   流星群



  走るのなんて久しぶりだ。
  いつも黒点虎に世話になっているから、すぐに息が切れてしまう。


  「太、公望…っどこに…いくんです…?」
  「まぁ、もうすぐ、わかる…!」


  息があがる。


  繋がった手が熱い。彼の闇色の髪が走るのにあわせて上下に揺れる。
  そろそろ足が痛くなってきた。明日筋肉痛になったらどうしよう。


  あぁ、今は何時なんだろうか?真っ暗だ。



  真っ暗…?いや、今…何か光った。



  「着いたぞ。」
  「あ。」


  星が、流れた。
  否、流れ始めた。


  「どうじゃ?すごいだろう!」
  「はい…。」


  二人そろって夜空を仰いで、感嘆の声を漏らした。


  流星群だった。
  幾筋もの光が、先の光を追い求めて走り出す。


  太公望が私を連れてきたのは海だった。
  海に落下するように流れる星は、水面にもその姿を映すものだから、水の上で星と星がぶつかっているように見えた。


  「綺麗じゃのう。」


  ぼす、と音がしたので太公望の方を向くと、彼は乾いた浜辺に寝転んでいた。


  「おぬしもどうじゃ?」
  「…服が汚れます。」
  「洗えばいいでわないか、ほれ、早うせい。」


  そう言って彼がぱふぱふと隣を叩いたので、しぶしぶ自分も寝っころがった。
  砂が冷たい。


  「綺麗です。とても。」
  「じゃろう?来て良かったろう。」
  「半分強制的に連れてこられたわけですが。」
  「う…。」
  「ふふ…まぁいいでしょう。来て損では無かったですし。」
  「…素直でないのう、おぬし。」
  「余計なお世話です。」


  そう言うと大の字に寝転ぶ彼が笑った。
  空ではまだ星が走り続けている。
  遥か遠く離れて散るその最期の輝きは、こんなにも美しい。



  ふと、目の前が暗くなった。



  「……邪魔ですよ。見えません。」
  「おぬしなぁ…もう少し、こう…ムードをだのう…。」


  目の前の、つまり私の上に覆いかぶさっている太公望が呆れたようにつぶやく。


  「何がムードですか。貴方こそ、こんなに綺麗な流星群を見ないでどうするんです。」



  「そんなことを言われても、わしにとってはおぬしの方が綺麗なのだから仕方が無い。」



  真顔でそんなことを言うものだから、こっちは恥ずかしくって仕方が無い。
  顔が熱い。
  夜といっても、この星の光で互いの顔はありありと見える。


  赤い顔を見られるのが嫌だった。


  「…馬鹿ですかあなたは……」
  「ふーん。バカで結構。」


  にんまりと笑って、太公望の顔が近くなる。
  逃げたいのに、両腕を押さえ込まれてはどうしようもない。…ということにしておく。
  

  息が近い。





  「キレイだ。」





  彼がそうつぶやいたと思ったら、口を塞がれた。
  唇を割って舌が入り込む。上がる息の苦しさに目が潤んだ。


  太公望の体が徐々に下に移動すると、また星が流れるのが見えた。
  潤んだ目に光はにじみ、そして何倍にも膨らんで見える。


  …不本意だが、きっと帰るのは朝方になるのだろう。
  ならばせめて今は、この幾重もの流星を目に焼き付けることにしよう。



  また一つ、星が走り出した。








 
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  2001年の、しし座流星群が綺麗だったなぁと思って書きました。
  太申は初めてハマった申公豹受けカプなのですが、どうも自分で書くのは苦手。

  執筆:07/不明 修正:09/2/24


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