特に何があったとか言うわけではないけれど、今日はちょっと我慢がきかない。
         なんであんなにかわいいかなぁ…。


          初夜



         「老子…?」


         いつものように申公豹が読書をしていて、私はそれを微笑ましく見つめていた。
         するとあの子が急に立ち上がって、どこかへ行ってしまおうとしたので、慌ててその肩を掴んで近くの壁に押し付けた。
         自分の行為に自分で驚いたのだが、申公豹は大きな群青の目をこちらに向けてもっと驚いていた。


         「どうしたんです?」
         「えーっと…あのさ…。」
         「?」


         そうやって、小首を傾げる様子とか可愛すぎる。
         特に理由なんて無いんだ。でもほら、せっかく両思いになったのにキスしかしてない。
         私だって男なんだから、それ以上の欲求くらいある。


         「キスしよう。」
         「へっ…?」
         「キス。ねぇいいでしょう?」
         「ぅ…はぁ。どうぞ…。」


         頬をピンクに染めて、申公豹が恥ずかしそうに目を閉じた。
         あぁもうだから…なんでそう、かわいいかなぁ。


         「ん…」


         申公豹の血色のいいそこは温かくて柔らかい。
         多分この子は、私がこのままくちびるを離して終わりだと思っているだろう。
         でも、今日はなんだか無理そうだ。
         だってずっと我慢してたんだ。この子が私を好きになってくれるまで、ずっとずっと。


         「んぅ……?」


         なかなかくちびるを離さない私に申公豹が不思議そうに声を出した。
         その声を聞いて、一度くちびるを離す。


         「ねぇ申公豹。」
         「はい?」
         「シよ…?」
         「ぇ…っ?」
         「だめ?」
         「だ、だめじゃないです…けど…あの…恥ずかしいんですが…。」
         

         「そんなの…すぐ忘れるよ。」


         そう言って微笑んで、もう一度キスを送った。
         薄く開いたくちびるに舌を入れると、戸惑いがちに申公豹が舌を絡ませてくる。
         伝い落ちる唾液もそのままにキスをしていると、ふっと申公豹の体の力が抜けた。


         「おっと…。大丈夫?」
         「は…い。」


         たっぷりと潤んだ、群青の瞳が私を捕らえて恥じらいがちに微笑んだ。
         なんて綺麗な生き物なんだろう。今まで見たことが無いくらいに。


         真っ白の服をたくし上げて手を這わす。くすぐったいのか、手を動かすたびに腹の筋肉がひくんと震えた。


         「…っ、ぁ…っ」


         私の指が胸の先端を掠めると、小さく声が上がった。


         「かわいい…。」
         「っぁ…ん…はぁ…っ…」


         硬くなり始めた胸の先端を何度も弄っていると、申公豹の腕が私の背中に回されて、服を掴んだ。
         それがなんだかいじらしくて可愛くて、空いている手で申公豹の髪を撫でた。
         そのまま絹のような白金の髪の結わえを外すと、滑り落ちるように髪が流れた。


         「こっちは…?」
         「っや…っ…」


         胸を触っていた手を下にずり降ろして性器に触れると、そこはもう十分に熱を帯びて勃ちあがっていた。


         「へぇ…敏感だね。もうこんなになってる。」
         「ひぁっ…ゃ…やぁ…っ…そんなとこっ…」


         服の上から撫でているだけなのに、申公豹の体はびくびくと震える。
         私の服を掴む手に力がこもった。下着の中に手を這わす。
         勃ち上がった性器からはもう先走りの液が溢れていて、下着を濡らしていた。


         「あ…っ…ひゃ、ぁっ…だめ…っ」 


         溢れた液体を塗りつけるように擦りあげる。


         「顔…真っ赤だよ、申公豹。」


         よっぽど恥ずかしいのだろう。耳まで真っ赤になった弟子にそう言うと、いたたまれないのか小さく頭が横に揺れた。
         あの冷静な顔がこんなになるなんて誰が知っている?
         あの落ち着いた声がこんなにも甘く鳴くのを誰が知っている?
         どうしようもない優越感が私を支配して、捕らえていた。


         「ぁっ…老子…っ…も…ぅ…」


         そう言って服を掴んだ手に一層力が加わった。消え入りそうに掠れた声。もう限界なのだろう。


         「いいよ。出してごらん。」


         申公豹の性器を一度強く扱くと、大きく体が跳ねた。


         「ぁっ…ぁあァ…ッ」


         惜しげもなく出された甘く高い声に眩暈がしそう。
         射精と同時に一気に力の抜けた体が、がくんと崩れ落ちそうになったので、慌ててその腰を掴む。
         白濁に染まった掌を呼吸の乱れた申公豹の目の前まで持ってきて、見せ付けるようにその指を舐め上げた。


         「なっ…!?」
         「いっぱい出たね。たまってた…?」
         「ち…違…っ…!」


         顔を真っ赤に染め上げて力いっぱい否定する弟子のなんと可愛いことか。こんな可愛い子世界中探したっていない。


         「冗談だよ、かわいいなぁ。」
         「かわいくなんか…ありません…っ…」


         だからそうやって、恥ずかしがる所がかわいいんだってば。
         力の抜けきった体を抱えあげる。驚きと非難の声が上がったけれど、そんなものは聞き流して寝室まで連れ込んだ。
         ベッドに寝かせると、解かれた白金の髪がたおやかに広がる。
         二人分の体重を乗せた簡素なベッドが、ギシリと音を立てた。


         「老子のせいで服が汚れました。」
         「ごめんごめん…後で洗えばいいじゃない。」
         「洗うのは専ら私です。」
         「洗ってあげようか…?」
         「っ…そういう意味で言ったんじゃないです…っ…」


         とたんに饒舌になった申公豹を不思議に思って、いまだに潤む群青の瞳を覗き込むと酷く揺らいで視線が外された。



         あぁなるほど…この後が不安なんだね。



         「大丈夫だよ。」
         「っ…何の…話ですか…」


         素直じゃないなぁ。まぁそういうところも、すきだよ。


         「優しくするから、って話。」
         「…。…痛くしたら…承知しません……」
         「了解。」


         薄く笑って服に手をかける。日の光にほとんど晒されない白い肌の面積が増えていくごとに、申公豹の頬は朱に染まっていく。
         最後の一枚を剥いだときには、ぎゅっと目が瞑られていた。


         「恥ずかしい…?」
         「あ…当たり前です…」
         「ふむ…じゃあこうしよう。」


         言うが否や、私は自分の服を脱ぎだした。最後に薄い掛け布団を背に負う。
         ぽかんとした表情で申公豹がこちらを見つめていた。


         「これで、同じ。恥ずかしくないでしょう?」


         笑ってそう問うと、小さく頭が縦に揺れた。
         申公豹の顔が少し嬉しそうなのは、気のせいじゃないはず。
         本当は精液で慣らそうと思っていたのだが、服を脱いでいる間にそうもいかなくなってしまったので、自分の指に唾液を絡ませた。
         後孔に指をあてがうとひくんと一度そこが震えた。


         「力、抜いてて…。」


         ゆっくりと指を滑り込ませていく。まだ一本だけれど、慣れない圧迫感に申公豹の顔が歪んだ。


         「ぅ…く…」
         「痛い…?」
         「痛くは…ないですが…っぅ…苦しい…」


         受け入れる器官ではないから苦しいのは仕方が無いが、早くその苦痛を取ってあげたくて内部の指をある一点を探すために動かしていく。


         「は…ぅ…んっ…」


         うっすらと目じりに涙がたまり始めた。それが苦痛のためか、少しずつ湧き出した快楽から来るのかはまだ分からない。
         何度も指を出し入れすると、ある一点で申公豹の声がひずんだ。


         「ここ…?」
         「ゃ…―――ひッ…!」


         もう一度押し上げるとびくりと大げさに体が震えて、白い喉が仰け反った。
         …見つけた。


         「ろ…老子…っそ、こ…は…」
         「気持ちいいでしょ?」
         「っや…ぁ…だ、めっ…やだぁ…っ…!」


         しつこい程に何度もそこを刺激すると、多大な快楽に申公豹の瞳から一筋涙が零れ落ちた。
         それを舌で拭いながら申公豹を見下ろす。
         とろけきった瞳は甘くゆがみ、まるですがるように私を見る。
         瞼にキスを送ってから、緩んだ後孔に指を増やして差し入れる。
         きゅうきゅうと締め付けるそこに入ったら、どんなに気持ちいいだろうと胸を膨らませた。



         「ぁ…っはぅ…老、子…ぃ…」



         この子はなんて声で私を呼ぶんだろう。
         そんな泣きそうな声で名前を呼ばれて、我慢なんか出来るはずがない。


         「ご、めん…申公豹。もう…入ってい…?」


         自分でも驚くくらい掠れた声で愛しい弟子に問いかける。
         まだ、十分に慣らせていない。このまま押し入ったら痛いに違いないのに。
         それでもこの子は、私にキスをくれた。
         「どうぞ」と、そう、口元で笑いながら。


         「――――っ…ぃ…あァッ…!」


         熱い自身で中程まで一気に貫くと、苦痛に申公豹の体が引きつった。
         細く白い腕が行き場を求めて空を掻き、私の背にぎゅっと絡みついた。


         「大丈夫……力、抜けるかい…?」
         「ぅ…く…っ…」


         ふるふると、力なく首が横に振られる。
         ギリギリと痛いくらいに締め付ける内部が、申公豹の苦痛を物語っていた。
         息が整うまで少し待ってから、また少しずつ内部に押し入っていく。


         「っ…ぁ…はぁ…っ…」
         「…っ」


         押し入るたびに、ギリッと私の背に申公豹の爪が食い込む。
         私たちは痛みを共有しているのかなぁ…とぼんやりと思った。

 
         最後まで埋め込んで動きを止める。気を抜くと、ねっとりと絡みつく内部に気持ちよくて死んでしまいそうになる。
         さっき見付けたあの場所を、掠めるように一度突き上げた。


         「ぁっ…ひぁ…っ…!」
         「申公豹のなか…あったかくてきもちいい…。」


         耳元でそうつぶやくと、くすぐったそうに申公豹が身をよじった。
         返事をしようと申公豹のくちびるがわずかに動いたが、出てきたのは甘ったるい嬌声。
         そろそろ我慢も限界らしい。
         張り詰めた性器の先端からぬめった液が溢れ、私の腹を濡らしていた。


         「ねぇ…申公豹…イきたい…?」


         とろけた瞳に問いかける。本当は、今すぐイきたいのは自分の方なのに。
         半分意識が飛びかけの申公豹は恥ずかしさも飛んでしまっているのか、何のためらいもなく呟いた。



         「イ…かせて…くださ……ろぅし…」



         あぁもうなんてかわいいんだろう。
         ぐっと腰に力を入れて、最奥まで一気に貫いた。


  
         「ひっ…――――あ…ぁあァッ…!」



         一層高く上がった声とともに、内部がキツく私を締め上げて、あまりのよさにそのまま精を放った。
         私の腹に白濁が放たれると、私の背に抱きついていた腕の力が抜けてくったりとベッドに落ちた。


         「申公豹…?」


         そっと見つめると、申公豹の大きな瞳は閉じられてしまっていた。
         どうやら気を失ってしまったらしい。


         「あらら…かーわいぃー…。」


         ほてった頬のまま疲れきったように眠る弟子の髪を2、3度撫でて、余韻に浸る。
         途端、中に出してしまったことを思い出して、名残惜しげに穿ったままのものを引き抜いて後処理に入った。



















         鳥の声が聞こえる。



         「ん……」


         まぶしい朝日に照らされて、腕の中のかわいい弟子の瞼がゆっくりと持ち上がった。


         「おはよう。」


         「お…はようございます…。」


         私が申公豹よりも早く起きていることに驚いたのか、少し見張った目で返事が返ってきた。
         まだ眠そうな目がこちらを見上げてくる。
         あまりのかわいさにもう一回しちゃだめかなぁと思ったが、さすがにマズいかと思い直した。


         「体とか拭いといたから、安心して。」
         「は…はぁ…。」


         昨日のことを思い出したのか、申公豹の頬が微かに染まる。
         触れ合った肌が温かかった。


         「眠いの…?寝てもいいよ、暇なんだし。」


         とろんとして瞬きの回数の少ない瞳に問いかける。
         んー、と一回唸ってから申公豹が呟いた。


         「貴方に…そんなことを言われる日が来ようとは…思いませんでしたよ…。いつも…眠そうなのは…あなた、なの…に…。」


         言い終わる頃には、申公豹の瞳は閉じられてしまっていて規則正しい寝息が聞こえてきた。


         「ほんと…いつもと逆だ。」


         弟子の指摘に小さく笑う。
         目の前の小柄な体をもう一度抱き締めなおして、自分も同じように眠りにおちた。













         ―――――――――――――――――――――――――――――
         タイトルになんのひねりも無くってすいません。題付けるの苦手;
         始まり方が自分で書いてて恥ずかしかったっ…甘すぎたかなぁ…;
         

         07/不明


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