029 あなたを失うことに比べれば


   !仙人の時代が終わった少し後くらいの時間軸だと思ってください。モブ要素強め。色々と捏造あり。



 






  (ああ、これは…本当に、しくじりましたね…。)


  身体が動かない。
  というかほとんど力が入らない。
  重い瞼を上げて何とか周囲を見渡すと、どうやらどこかの一室のようだった。
  小綺麗な室内でふかふかの寝台に転がされているが、両手が縄で拘束されていてお世辞にも心地いいとは言えない。
  枕元には香炉が置いてあって、甘ったるく不愉快な香りが室内に満ちていた。
  おそらく身体の自由が利かないのはこの香の所為なのだろう。


  覚えているのは昼下がりの街中を散策していて、裏路地に入ったところまでだ。
  もう仙人が稀少種のような扱いを受けるこの時代で霊獣を連れて歩くわけにもいかず、一人で行動していたのだった。
  そういえばあの裏路地に入った時にも同じような香りがしていたから、それに当てられて意識を失ったのだろう。
  だとすれば路地に入る前からつけられていたわけだ。全く我ながら間抜けな話である。
  不甲斐無さに大きく溜息をつくと、同時に扉の開く音がした。
  とっさにそちらを向こうとするが、ゆるゆると首を動かすのが精いっぱいだった。


  「ああ、やっとお目醒めになられたのですね!仙人さま…。」


  どこか悦の入ったような声を上げて、人が近づいてくる。
  ひょろりと背の高い、痩せ形の学者のような出で立ちをした男だった。
  寝台の際に手をついて、私の顔を覗きこんでくる目はうっとりと細められている。
  頬を撫でてくる指先に吐き気がした。


  「触らないで頂けますか。気持ちが悪いので。」
  「おっと…これは失礼を。」


  吐き捨てるように言うと、男はにこりと笑って手を離した。うすら寒い笑みに悪寒が走る。
  顔が笑っていても目が全く笑っていない。狂気じみた、鋭利な刃のような目だ。


  「自己紹介がまだでしたね。私は余暉(ヨキ)。しがない研究者です。研究といっても趣味が高じて職にしてしまったのですが…そうですねぇ、実際に見ていただいた方が話が速いと思いますので、どうぞご覧になってください。」
  「――――っつ!?」


  男が手を差し出すと、部屋の帳が開かれ数人の人が現れた。
  いや、正確には、保存液につけられた死体≠ェ並んでいた。しかも皆仙人骨をもっている。
  瞼を閉じて傷一つないそれは、まるで人形のようだった。


  「美しいでしょう…?私は無類の仙道収集家なのです。この部屋に焚いてある香も、貴方がたのために特別に開発したものなんですよ。ただの人間には甘い匂いの香でしかありません。多少非合法なものが入っていますが…なかなか私の嗜好を分かってくださる仙人さまはいらっしゃらないので、仕方ないですよねえ。」
  「…大層なご趣味をお持ちで。…反吐が出ますよ。」
  「おやおや…顔に似合わず汚い言葉をお使いになる。」

  
  余暉がうっそりと笑む。
  口では強がっているが、戦況は非常にまずかった。
  外界と連絡をとる手段もなく、身体は多少動くようになっているが、攻撃や逃亡など到底無理な状態だ。
  せめて老子と繋がれればと思うが、向こうがこちらに干渉することはできても私が干渉するには眠らなければならない。
  こんな状態で眠ったら、まさにまな板の上の鯉でしかないだろう。
  それに、先程から嫌に身体が熱かった。ざわざわと撫でられているように全身がむず痒い。
  気持ち悪さを逃がすように身を捩ると、余暉がにやっと口を歪めた。


  「お身体の調子はどうです?すぐに殺してしまうのも勿体ないですし、最近は趣向を凝らしているんですよ。快楽でとろけた頭のまま命を絶たれるというのもオツでしょう?」
  「ッ悪趣味な…!」


  覆いかぶさってくる男を蹴り上げようとした足は、いとも簡単に掴み上げられてしまった。
  そのまま掴んだ手が太ももを付け根に向かって撫であげる。
  まるで電流か何かのように走った快感に、唇を噛んで声を押さえた。
  あの香の中に媚薬の類が入っているのは明白だった。


  「っ…ん、んんっ…!」
  「あんまり我慢なさると、唇が切れてしまいますよ?」
  「ゃ…っく、んぅ…ッ」


  焦らすようにゆっくりと手が太ももを上下する、足の付け根のきわどい部分まで迫ってくるその動きに嫌でも身体が跳ねてしまう。
  好き勝手されるのが気にくわなくてギンッと睨みつけると、余暉は恍惚とした顔で息をもらした。


  「ああ…その視線すらも美しい。今まで色んな仙人を見てきましたが、貴方のように気高い方は初めてですよ。みな私のコレクションを見せると、みっともなく許しを請うか、泣き喚くかのいずれかでしたからねえ…。」
  「あなたなんかに、褒められてもっ…嬉しく、ありませんね…ッ…」
  「まぁそういわずに…。もっと可愛い顔を見せてくださいよ。」
  「ひぅっ…!」


  今まで核心に触れてこなかった手が、無遠慮に性器を掴んだ。
  布越しの刺激でも感度の上がりきった身体には暴力的な快楽だった。
  引き結んでいた唇が解け、嫌になるくらい甘く鼻にかかった声が出る。


  「ぁ、あっ…はな、しっ…はぁっ…!」
  「この香、力の強い人ほど強い効果が出るんですよ。随分効いているように見えるのは貴方がお強いからでしょうか?それとも感度がよろしいのでしょうかねぇ。」


  形を確かめるように撫でた後、そのまま上下に扱かれる。
  行為を否定したいのに、身体はどんどん気持ちよさを求めて走りだしてしまう。
  頭を振って、目を閉じて、身体を強張らせても、高まっていく射精感を止められない。


  「っふ、ぁ、あッ…嫌、ですっ」
  「嫌じゃなくって、気持ちいいんでしょう?ほら、いいんですよ、イっても。」
  「や、ぁっ…あ、――っ!!」


  ぐっと布越しの先端をつつかれて、じんわりと下腹部に熱が広がるのを感じた。
  情けなさと屈辱感に目頭が熱くなる。手の自由がきかなくて涙さえぬぐえないことが悔しくてたまらなかった。


  「涙にぬれたお顔も素敵ですよ?」
  「……。」
  「おや。無言の抵抗…というやつですか。つまらないですねぇ。まぁいいでしょう…そうだ、ここ、気持ち悪いでしょうから脱がしてさしあげますよ。」
  「っ…やめっ…!」


  余暉の手がズボンの手にかかる。
  大した抵抗も出来ないまま、一気に脱がされた。
  両太ももをつかんで開脚させられる。相手の動きは緩慢で、それがかえって羞恥心を煽った。
  狐のような目で、私に笑いかけてくる。


  「汚れてしまいましたし、綺麗にして差し上げましょうか。」
  「っい、らな…!〜〜っひ、ぅう…!」


  見せつけるように、余暉が舌を伸ばして精液を舐め取っていく。
  感度が上がっているうえにイったばかりのそこをそんな風にされてしまって、身体が痙攣したように震え続ける。
  下から先端に向かって舐めるのを何度か繰り返すと、次は先端の敏感な部分を舌先でつつかれる。
  途端に溢れた蜜を、強引に吸い上げられた。


  「っぁ、ああッ!」
  「ここお好きなんですねぇ、さっきも随分感じていましたし…。一体どなたに開発されたんでしょうかねぇ。」
  「あっ、あはっ…も、もぉ…やぁ…っ、そこ、やだぁ…っ」
  「おやおや…。可愛らしい声で鳴くんですね。殺してしまうのがもったいなくなってきましたよ。でもこの綺麗なまま、とどめておきたいとも思いますし…難しいところですねぇ。」


  くすくすと笑う声が遠い。段々と意識がぼんやりしてくるのが分かる。
  香の効果と精神的なストレス、強制的な快楽がないまぜになって頭の中が溶けそうだ。


  「…ろ…ぅし…」


  半分夢の中のような状態で、もう何度も口にした名を紡いでいた。



  どうせ殺されるのなら、せめて貴方の手がいいのに。――老子。










  ガァンッと金属の割れる音で目を覚ますと、身体が宙に浮かんでいた。
  いや、正確に言うと誰かに抱きあげられていた。


  「…いきなり夢に割りこんできたと思ったら、なんて物騒な事を言うのかな…キミって子は。」
  「老子…っ?!どうして…!」
  「どうしてもこうしても…キミが私の夢に干渉してきたんじゃないか。それより説明は後でいい?こいつ殺したいんだケド。」


  こいつ、と下に下がった老子の視線をなぞると、恐怖にひきつった顔の余暉がそこにいた。
  何か喋ろうとしているが、老子が首を足で踏みつけているのでまともに息が出来ていない。
  長い睫毛に縁取られた金色の目が、虫でも見るように余暉を見つめていた。
  こういう時の師は、ぞっとするほど容赦がない。


  「あなたの…手を煩わせるほどの者ではないです、老子。」
  「君はちょっと優しすぎるんじゃないかな、申公豹。何をされ、されようとしていたかわかってる?」
  「分かっています。けれど人の手で裁かれなければ、彼ら≠ェ報われません。」


  私は帳の向こうの遺体を見て言った。
  ここで私たちがこの男を殺したら、犯人死亡で片づけられておしまいだ。
  それに余暉の口ぶりからして、ここにある遺体でコレクション≠ェ全部とは思えない。
  全てを明るみにするためにもこの男は生きている必要があるだろう。


  「はぁ…わかったよ。」


  溜息をついて足を首から離すと、老子はそのまま、咳き込んで苦しむ余暉の鳩尾を蹴りあげて気絶させた。
  一気に部屋に静寂が満ちる。
  先程、老子が入ってきたときにした金属音は香炉を壊した音だったらしい。
  甘い香りは薄らいで、身体も少しづつ力が入るようになっていた。


  「警邏には匿名で通報しておいたよ。」


  寝台の位置からは気付かなかったが部屋には電話が引いてあったようで、受話器を置いた老子がこちらにやってきた。
  声のトーンはどことなく低くて、怒っているのが分かる。


  「すみません…。」
  「っ…申公豹に怒ってるわけじゃない!びっくりしたんだ、私の夢に干渉してくるなんてキミはほとんどしたことがないし、しかも入ってきて第一声がどうせ殺されるなら――≠チて…っ来たら来たでこんな状態だし、もう、ほんとに、本当に――…


  心臓が止まるかと思った…ッ」


  滅多に聞かない切羽つまった声でそう言うと、老子は私の身体を閉じ込めた。
  痛いくらいの力で抱きしめられ、息がつまって苦しい。
  それでも、触れ合った肌から聞こえる拍動の速さにどれだけ心配してくれたのかを理解して、長い間大人しくその腕の中に納まっていた。






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  実はずっと書きたかったモブ申!(笑)
  老子の夢と繋がるには云々とか色々捏造してますが広い心でお読みくださいorz
  時が流れたら仙人って人魚伝説みたいな感じでどんどん希少価値高くなって変な噂とか流れて収集とか売買とかされるんじゃないかなって!(ニコッ
  ちなみに老子は夢が繋がった後申公豹の気配辿って空間転移で飛んできてます。
  自分で書いておいてなんですがほんと余暉きもちわるいなwwww
  老子は興味ない人には結構酷い対応だと萌えます、私が(^q^)


  続きはがっつり老申予定です。




  14/8/31